光禅寺の庭に海棠の花が咲いていた。リンゴの花に似た、白にピンクの混ざる可憐な花である。昔、南原に家を買って住んだころ、親しくしていた家が2軒あった。そのうちの一軒の庭に海棠が植えられていた。海棠の花の咲く頃、狭い庭に七輪を持ち出して、肉や魚を焼いてバーベキューを楽しんだ。子どもたちは小さく3軒の住人も若かったから、和気藹々と酒を飲んで歓談した。
北海道の利尻島出身の作詞家である時雨音羽が書いた『海棠の歌』という歌がある。題は忘れてしまったが、映画の主題歌である。音羽といえば、藤原義江のヒット曲『出船の歌』や『鉾をおさめて』、またフランク永井の『君恋し』の作詞でも知られている。昭和55年没。
姿やさしい海棠の
花につれない夜の雨
あらしになったらなんとしょう
乙女心をそのままに
きょうもあの日の夢に咲く
悲しいわかれじゃないかしら
雨は涙か引く糸か
花を見せたい人は来ず
逢わずに散ったらなんとしょう
海棠はまた梨の花と同じく、楊貴妃にまつわる伝説がある。海棠が別名として用いられる「眠れる花」が、玄宗に召された楊貴妃がまだ眠りから冷め切れないでいるのを見て、「海棠眠り未だ足らざるのみ」と言った故事よっているからだ。楊貴妃の様子を、海棠の可憐な花に例えたのである。
海棠や白粉に紅をあやまてる 蕪 村