万葉集で詠まれているツユクサはツキクサで著草また月草と書く。これはこの花が衣に著きやすいため、花摺り衣に用いられた。この着物の色は縹色(はなだいろ)という。路傍や畑地に自生し、夏になると藍色の花が咲き、朝露を含んで美しい。花は夕方にはしぼんでしまう。
月草に衣ぞ染むる 君がため斑の衣摺らむと思ひて 巻第7 1255
露草で着物を摺り染にしている。あの方のために、斑に染めた美しい着物に仕立てようと思って。上の2句で切った表現に、小躍りしながらいとしい男のために作業している女性の姿がありありと見えるようだ。
月草に衣色どり摺らめども うつろふ色と言ふが苦しさ 巻第7 1339
ツキクサは着やすいが、褪せやすい色でもあった。その色の習性を男の評判に重ね合わせた歌である。露草の花で色取って染めたいのですが、その色が移ろいやすい評判を聞くのは何とも苦しいことです。
写真はツユクサ科ではあるが、南米産のムラサキツユクサ。近年園芸品種として各地で鑑賞用に栽培されている。