斜平山はなでらやまと読む。米沢市内から、西南に目を向けると、なだらかな高原の上に切り立った山並みが数キロにわたって続いているのが見える。斜平山という山があるのではない。この一つ続きの山並みを斜平山と呼ぶ。テレビ搭のある笹野山から、神社のある愛宕山、そして御成山へと続く山並み全体を指している。写真は、尾根筋の見晴らし場所からの、南の眺望だ。残雪に光る栂峰と飯森山とその裾野の山々の新緑が目を洗ってくれる。
ここは、米沢市民の憩いの場所でもある。中腹までのなだらかな山容からなでらというという話もあるが、春先切り立った斜面から雪崩が起きるから、言葉が変形してなでらとなったという話もある。登山道の入り口で、4、5人のハイカーが、この山道を散策して下山してくるのに行き会った。一点の雲のない青空のもと、日ざしは初夏を思わせる。少し歩くと、汗ばんでくる陽気である。
蝶になったばかりのキアゲハが、枯れ草の中に羽を休めている。アゲハチョウの鮮やかな羽の色も、この春初めて見る。木は芽を吹き、コシアブラの芽はほとんどが伸びて、大きくなっていた。先端の細い枝に着いた芽を少々採る。夜の食卓に、コシアブラの天ぷらをのせるつもりだ。これも、ことしの初物である。この地方では、笹野彫りと呼ばれる伝等の木彫りがある。コシアブラの木を、尾長鳥の尾の先端を丸めて重ねて彫っていく独特の技である。
この地方では、この技を守るためにコシアブラの木を大切してきた。この木の新芽を食するなどというのは、昔からのご法度であった。斜山に自生するコシアブラは、雑木林のなかでもそれほど目だってはいない。木彫りの職人はやはりもっと深い山から材料を伐り出したのであろうか。
東側に目を転ずると、山麓の水田では、苗代が作られていた。水田はきれいに整備され、パッチワークでも見るような光景だ。菜の花が、黄色く咲いているのが見える。苗代がすっかり整い、代掻きが終わるといよいよ田植である。山形では、この日曜日に多くの田で田植えを終えるが、米沢ではあと1、2週間で始まるというところか。
苗代の二枚つづける緑かな 松本たかし