
近所を散策していると、次々と秋の花を見かける。シュウメイギクの白い花が咲きはじめ、木槿の花のからわらに、萩の花を見つけてうれしくなった。山上憶良が秋の七種の花を詠んでいるが、その一番目に登場するのが萩の花だ。「萩の花尾花葛花なでしこの花女郎花また藤袴朝顔の花」と花の名だけを並べた万葉集のなかでも、旋頭歌とよばれる珍しい歌である。
万葉をはじめ古代の人が萩を愛したのは、花の美しさもさることながら、枝を下へ下へと伸ばしながら風に吹かれながら咲く、たおやかな風情であった。清少納言が『枕草子』の第67段に萩の花に触れている。
萩、いと色ふかう、枝たおやかに咲きたるが、朝露にぬれてなよなよと
ひろごりふしたる、さ牡鹿のわきて立ち馴らすらんも、心ことなり。
枝を広げて咲く、萩の花の株をかき分けるように、牡鹿が走り、雌をもとめて鳴く声に、妻恋いを連想した。秋を盛りに咲き誇る萩の花。風に吹かれる風情はなまめかしく、そして牡鹿のたくましさ。それらを秋のイメージとしてとらえたのが、その時代の貴族たちの美意識であったであろう。