
西蔵王の放牧場から瀧山に登った。約3㌔、標高差にして450mぐらいに過ぎないが、結構急な登り坂になっている。このコースを登るのは、もう15年以上も前のことであった。家のベランダから毎日仰ぎ見ている山なので、自分の庭のような感じで懐かしい山行であった。広い放牧場なのだが、なぜか放牧しているはずの牛が一頭も見えなかった。木陰のくぼんだ場所で、やわらかい牧草を食べているのであろうか。昨夜あたりの雨で粘土交じりの登山道は、滑って足をとられやすい。
2時間ほどで頂上に着く。ここからはもちろん市内のビル群が見え、目を東に転ずると蔵王山が大きく広がっている。斜面の木をなくしたスキー場も見えている。目の前に聳える雁戸山の深い緑の雄姿が美しい。頂上には、斎藤茂吉がこの山を詠んだ歌の碑が立っていた。
山の峰かたみに低くなりゆきて笹谷峠は其処にあるはや 斉藤 茂吉
昭和16年の歌集「霜」に見える歌である。この年の5月1日、茂吉は甥の高橋重雄と一緒に蔵王温泉に至り、そこから瀧山の頂上に登っている。歌集を見るとこの歌に続いて、「雁戸よりひだりに低くなりゆきし笹谷峠は愛しきろかも」の歌が見えるので、山の峰とは目の前に双耳をなす雁戸山であり、左へ高度を下げつつ笹谷峠に至る光景を詠んでいる。思えば2年前になるが、蔵王の刈田岳から北蔵王縦走コースを辿って笹谷峠まで縦走したことを思い出す。
山中でキノコが出始めていた。アミタケ、ベニタマゴタケなど大きな笠を開いていた。今年は乾燥でキノコは不作と聞いていたが、このところの台風のもたらした雨で、キノコが出る環境が整ったのであろうか。本日の参加者11名、10時30分過ぎには頂上に着いて弁当を広げた。頂上で、我々のチームのほかに5名ほどの人が登ってきた。中には、新潟から来た登山者もいた。頂上では風もなく、視界良好。眼下に山形市の市街を眺めながら、ホームグランドの登山が楽しめた。子どもたちと登った小学校の親子登山、嫁いだ娘の家の人たちと登ったことなど、過去の思いでが走馬灯のように浮かぶ。
この頂上の先には茂吉の泊まった蔵王温泉もある。近所の家族とこの頂上を越えて、蔵王温泉のジンギスカンを食べたことも3度ほどある。いまとなっては、どれも懐かしい想い出だ。頂上にきて、そんな思い出に浸るのも、この先何回できるか。冬カンジキを履いて登った回数の方が多いような気もする。