生き残った兄弟3人が、北海道の温泉を訪ねる旅をすることになった。温泉は札幌郊外の定山渓。姉が90歳、兄が85歳ということだから、この旅が最後となるかも知れない。北海道に生れていながら、この温泉に行くのは初めてのことである。最初が登別、次が層雲峡、そして定山渓ときて、甥、姪の世話で、3人の温泉の旅は完結することになる。
この温泉は、明治新政府と仏教徒の因縁が、この温泉の由来に関係している。神道に重きを置いた明治政府は、仏教徒に冷たくあたった。東本願寺の現如上人が北陸や東北の信徒に、渡道を呼びかける歌を作った。
トーサン カーサン
ユカシャンセ
ウマイ肴モ胆斗アル
オイシイ酒モ旦トアル
エゾ エゾ エゾ エゾ
エイジャナイカ
北海道の開拓に協力した東本願寺だけは、布教が許され、定山渓から札幌への道は長く本願寺街道と呼ばれた。我が家の家系も、明治政府が募った屯田兵として渡道している。厳しい気象条件下で、原始林を切り開くのに、渡道を奨励するには、北の大地を別天地のようなイメージを作りだす必要があった。平成の長高齢者3人旅は、この温泉郷に別天地を見ることができるか。