ベランダでサボテンが大きな花を三輪開いた。
花を写真に収めて、空を見上げる。雲もなく
今日も暑くなりそうだ。本棚から高見順の『
敗戦日記』を取り出す。高見順の日記の昭和
20年を抜粋したものだ。8月15日のところ開
け拾い読みをする。
12時時報。
君ガ代奏楽。
詔書の御朗読。
やはり戦争終結であった。
君ガ代奏楽。ついで内閣告諭。経過の発
表。--遂に敗けたのだ。戦いに敗れたの
だ。
夏の太陽がカッカと燃えている。目に痛
い光線。烈日のもとに敗戦を知らされた。
蝉がしきりに鳴いている。音はそれだけ
だ。静かだ。
(中略)
新橋の歩廊に憲兵が出ていた。改札口に
も立っている。しかし民衆の雰囲気は極
めて穏やかなものである。平静である。
興奮しているものは一人も見かけない。
田村町の新聞売り場で、高見は新聞を買
う。新聞売り場にだけは、延々と続く行
列ができていた。高見が買った特別号の
東京新聞のお見出しには
戦争終結の聖断・大詔渙発さる
高見が見たこの日の東京の様子は、日本
人の性格をよく現している。どのような
大事件が起ころうとも、日本では大衆が
暴発するようなことは起きない。