5時に起床、窓から外を見ると、素晴らしい
朝焼けである。こんな素晴らしい朝の景色を
見るのは初めてだ。一期一会という言葉はこ
ん景色を見たときに使うのがふさわしい。読
みかけていたウェストンの『日本アルプス』
を読み継ぐ。いよいよ、槍ヶ岳の登頂成功の
場面である。この書のクライマックスだ。ウ
ェストンは梓川の渓流を遡り、徳本峠から槍
の穂先に向かうのだが、この間の描写は意外
にも簡潔である。
「急な流れの川床から2時間たゆまずのぼっ
て行くと、そこから「槍ヶ岳」の岩塔が険し
くそびえている尾根の狭い裂け目に着いた。
それから北に向い、昨年引き返した地点をま
もなくうまく通り過ぎた。なめらかでけわし
い岩板は、雨の時は危険だが、今はすっかり
乾いており、都合のよい割れ目や突出部が、
いたるところで足場や手がかりになった」
こうして痩せ尾根をあるくこと150m、一行
は頂上に着く。ここからは、360°見渡せる
すばらしい眺望の描写となる。
「真東に当っては、常念岳の三角形の姿がくっ
きりとした輪郭を見せている。浅間山の煙は遥
かかなたに立ち昇っている。南のほうには、も
っと近い主山系の巨峰、穂高山や乗鞍、そして
その向うには御嶽が目に映る。南東には駒ケ岳
、なお遠くには甲州の峰々がきわだってそびえ
ている。しかし、一番堂々としているのは、左
右釣り合いのとれた富士の円錐形の頂上で、私
たちから離れること、150キロに近いかなたに
、太平洋の岸辺からそびえ立っている。」
ウェストンのこの詳細な山の知識には驚かされ
る。現代の日本人、めったに日本アルプスに行
かない我々は、どの頂上に立っても、山の名を
同定することは難しい。そして、日本のマッタ
ーホルンと命名した槍ヶ岳の登頂を目指した強
固な意思、山道とて今日のように整備されもの
でなく、その山中で生計を立てていた猟師の案
内で、幾度も失敗を経たのちに、見事に山頂に
立っている。