岩手県紫波町の東根山は花の山だ。標高928mはこの時期で、雪のない山道を気楽に花を楽しみながら登ることができる。週末ということもあって、地元の老若男女の登山客でにぎわっている。
登りはじめカタクリは終わりを告げ、二輪草の可憐な花の横につんと伸びたトリカブトが立ち上がっていた。高度を少し上げると、シラネアオイが妖艶な姿を見せる。その先の斜面には二輪草の群落が白い花をつけて一面に広がっている。
「うわあ、きれいだあ」「こんなに群生している二輪草ははじめてだわ」「そういえば、二輪草の歌があるね」「あれ、夫婦の歌かな」「二人は二輪草、川中美幸だよ」こんな他愛もない話題で盛り上がり、笑い声が絶えない。こうして足を運ばない限り、こんな光景に出会うことはない。映画や写真で美しい山の絵をみることはあるが、それは擬似体験でしかない。自分の目で見て初めて本物の自然が語りかけてくる。
今回参加した一行は男性4名、女性6名の計10名だ。曇り空ではあるが、何とか雨にあたらずに済みそうだ。気温は6℃、少し肌寒いが登山にはちょうどよい。
二の平を過ぎると高度は700mを越す。満開の大きな山桜が、一行を歓迎してくれた。桜の季節が終わってしまっただけにこんな満開の桜を見られるのはうれしい。沢筋では、サンカヨウの紫の小さな花がある。
800mを越すと、カタクリの蕾にであった。日のあたる明るい斜面には群生している。曇り空のもとでは、蕾はうつむき加減だ。ぱっと開くと、女の子たちが笑い声をたてておしゃべりをしている風情である。この山に白花カタクリがあると聞いて、「じゃあ、探して見ようよ」と花に注目する。
山道は沢へ水を流す小さな手作り水路が、そこかしこにあり、よく整備してくれている。山を管理するボランテア風の人が、この山について話をしてくれる。「白花カタクリは展望台の脇でいま咲いていますよ」
案内されるままに、カタクリの群生をみると、竹で目印をつけた白花カタクリが二本確かにあった。その笹は抜いてください、悪い人がいて珍しいからと抜いて持って帰る人がいるんですよ。
カタクリはユリ科の多年草。カタカゴともいう。葉の間から15センチほどの茎を伸ばして
下向きに咲くピンクの花をつける。
数咲いて花かたくりはひとつづつ 五十嵐橎水