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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

「跡絶ゆ」用例

2015年03月18日 | 日本国語大辞典-あ行

 「跡を絶ゆ」という用語には「人跡が絶える。人の行き来がなくなる。」という語釈があり、日本国語大辞典・第二版では1001-14年頃の用例を古い例として挙げていますが、さかのぼる用例が複数あります。
 小見出しとしては助詞の「を」無しで、「跡絶ゆ」で良いような気もします。

落盡閑華不見人
あと絶てしつけき山に咲花のちりはつるまて見る人もなし
(巻第百七十九・句題和歌、春)
塙保己一編『群書類従・第十一輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1993年、452ページ

としふかく-つもれるゆきの-あとたえて-ひとかよひちの-みえぬわかやと
(躬恒集・320)~日文研の和歌データベースより

式部卿の親王、しのびて通ふ所侍りけるを、のちのち絶え絶えになりたるころほひ、妹の前斎宮の親王のもとより、この女のもとに、このごろはいかにぞとありければ、その返事に
白山に雪ふりぬればあと絶えていまはこしぢに人も通はず
(冬、四七一)
松田武夫校訂『後撰和歌集(岩波文庫)』岩波書店、1945年、83ページ


「散り果てる」用例

2015年03月18日 | 日本国語大辞典-た行

 「散り果てる」という単語は日本国語大辞典・第二版では10C終の用例を古い例として挙げていますが、さかのぼる用例があります。

落盡閑華不見人
あと絶てしつけき山に咲花のちりはつるまて見る人もなし
(巻第百七十九・句題和歌、春)
塙保己一編『群書類従・第十一輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1993年、452ページ


「色音(いろね)」用例

2015年03月17日 | 日本国語大辞典-あ行

 「色音(いろね)」という単語の用例は、日本国語大辞典・第二版では謡曲の1435年頃の用例を早い例としてあげていますが、さかのぼる用例が複数あります。

塩竈浦
はなとりのいろねならねどさびしきは春のゆふべのしほがまのうら
(114・雅有集、746)
『新編国歌大観 第7巻』角川書店、1989年、563ページ

ゆくはるも-なさけはのこせ-はなとりの-いろねになれし-かたみはかりは
(嘉元百首)~日文研・和歌データベースより

花鳥の色ねもたえて暮るる空の霞ばかりに残る春かな
(巻第二・春歌下、275)
岩佐美代子『玉葉和歌集全注釈 上巻』笠間書院、1996年、185ページ


古典の季節表現 春 三月

2015年03月16日 | 日本古典文学-春

 三月になりぬ。このめすゞめがくれになりてまつりのころおぼえてさかきふえこひしういとものあはれなるにそへてもなどなにごとを猶おどろかしけるもくやしうれいのたえまよりもやすからずおぼえけんはなにの心にかありけん。
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

三月ばかりの夜のあはれなるを見て
物思ふに哀れなるかと我ならぬ人に今宵の月を見せばや
(和泉式部続集~岩波文庫)

うちなかめはるのやよひのみしかよをねもせてひとりあかすころかな
(夫木抄~日文研HPより)

播磨守に侍りけるとき、三月はかりに、舟よりのほり侍けるに、つのくにゝやまちといふところに、参議為通朝臣しほゆあみて侍、ときゝてつかはしける 平忠盛朝臣
なかゐすな都の花も咲ぬらん我もなにゆへいそく舟出そ
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

弘安三年三月、日吉社にはしめて御幸侍ける時、天台座主にてよみ侍ける 前大僧正公豪
としことの御幸を契る春なれは色をそへてや花も咲らん
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

嘉承二年三月鳥羽殿の行幸に池上花といへる事をよませ給ひける 堀河院御製
いけ水のそこさへ匂ふ花さくら見るともあかし千世の春まて
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
嘉承二年鳥羽殿にて、池上花といへることを 富家入道前関白太政大臣
千世をへてすむへき池の水なれはうつれる花の陰ものとけし
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
堀河院の御時、鳥羽殿に行幸の日、池上花といへる心を読侍ける 法性寺入道前関白太政大臣
池水に花のにしきをうつしては浪のあやをやたちかさぬらん
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
嘉承二年三月、鳥羽に行幸侍ける時、池上花といへることを講せられ侍けるに 中御門右大臣
ちよをへてそこまてすめる池水にふかくもうつる花の色哉
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
堀河院御時、鳥羽殿にて、池上花といへる心を講せられけるに 大納言俊明
うちよする浪に散かふ花みれはこほらぬ池に雪そつもれる
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
おなし御時(堀川院御時)、鳥羽殿に行幸の日、池上花といへる心をよませ給けるに 中納言実隆
桜花うつれる池のかけみれは波さへけふはかさしおりけり
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
堀川院御時、鳥羽殿に行幸の日、池上花といへる心を読侍ける 権中納言俊忠
千とせすむ池の汀の八重桜かけさへ底にかさねてそ見る
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

延喜の御屏風に伊勢の御息所、和歌を読める語(こと)
今昔、延喜天皇、御子の宮の御着袴(はかまぎ)の料に御屏風を為(せ)させ給て、(略)春の帖に桜の花の栄(さき)たる所に、女車の山路行たる絵を書たる所に当て色紙形有り、(略)
伊衡は仰を奉て、御息所の家に行て見れば、五条渡なる所也。庭の木立ち極て木暗くて、前栽極く可咲(おかし)く殖たり。庭は苔、砂(いさご)青み渡たり。三月許(ばかり)の事なれば、前桜■(ごんべん+慈)(おもしろ)く栄へ、寝殿の南面に帽額の簾(すだれ)所々破て神さびたり。(略)
程も久く成ぬれば、紫の薄様に歌を書て結ひて、同じ色の薄様に裏(つつみ)て、女の装束を具して押出たり。赤色の重(かさね)の唐衣、地摺の裳、濃き袴也。(略)
ちりちらずきかまほしきをふるさとのはなみてかへるひともあはなむ
(今昔物語集・巻第二十四・第三十一~岩波文庫)

 弥生になりて、咲く桜あれば、散りかひくもり、おほかたの盛りなるころ、のどやかにおはする所は、紛るることなく、端近なる罪もあるまじかめり。
  そのころ、十八、九のほどやおはしけむ、御容貌も心ばへも、とりどりにぞをかしき。姫君は、いとあざやかに気高う、今めかしきさましたまひて、げに、ただ人にて見たてまつらむは、似げなうぞ見えたまふ。
  桜の細長、山吹などの、折にあひたる色あひの、なつかしきほどに重なりたる裾まで、愛敬のこぼれ落ちたるやうに見ゆる、御もてなしなども、らうらうじく、心恥づかしき気さへ添ひたまへり。
  今一所は、薄紅梅に、桜色にて、柳の糸のやうに、たをたをとたゆみ、いとそびやかになまめかしう、澄みたるさまして、重りかに心深きけはひは、まさりたまへれど、匂ひやかなるけはひは、こよなしとぞ人思へる。
(略)
 御前の花の木どもの中にも、匂ひまさりてをかしき桜を折らせて、「他のには似ずこそ」など、もてあそびたまふを、
  「幼くおはしましし時、この花は、わがぞ、わがぞと、争ひたまひしを、故殿は、姫君の御花ぞと定めたまふ。上は、若君の御木と定めたまひしを、いとさは泣きののしらねど、やすからず思ひたまへられしはや」とて、「この桜の老木になりにけるにつけても、過ぎにける齢を思ひたまへ出づれば、あまたの人に後れはべりにける、身の愁へも、止めがたうこそ」
  など、泣きみ笑ひみ聞こえたまひて、例よりはのどやかにおはす。人の婿になりて、心静かにも今は見えたまはぬを、花に心とどめてものしたまふ。
(略)
 君達は、花の争ひをしつつ明かし暮らしたまふに、風荒らかに吹きたる夕つ方、乱れ落つるがいと口惜しうあたらしければ、負け方の姫君、
  「桜ゆゑ風に心の騒ぐかな思ひぐまなき花と見る見る」
  御方の宰相の君、
  「咲くと見てかつは散りぬる花なれば負くるを深き恨みともせず」
  と聞こえ助くれば、右の姫君、
  「風に散ることは世の常枝ながら移ろふ花をただにしも見じ」
  この御方の大輔の君、
  「心ありて池のみぎはに落つる花あわとなりてもわが方に寄れ」
  勝ち方の童女おりて、花の下にありきて、散りたるをいと多く拾ひて、持て参れり。
  「大空の風に散れども桜花おのがものとぞかきつめて見る」
  左のなれき、
  「桜花匂ひあまたに散らさじとおほふばかりの袖はありやは
 心せばげにこそ見ゆめれ」など言ひ落とす。
(源氏物語・竹河~バージニア大学HPより)

 弥生ばかりの空うららかなる日、六条の院に、兵部卿宮、衛門督など参りたまへり。
(略)
 ゆゑある庭の木立のいたく霞みこめたるに、色々紐ときわたる花の木ども、わづかなる萌黄の蔭に、かくはかなきことなれど、(略)
 いと労ある心ばへども見えて、数多くなりゆくに、上臈も乱れて、冠の額すこしくつろぎたり。大将の君も、御位のほど思ふこそ、例ならぬ乱りがはしさかなとおぼゆれ、見る目は、人よりけに若くをかしげにて、桜の直衣のやや萎えたるに、指貫の裾つ方、すこしふくみて、けしきばかり引き上げたまへり。
 軽々しうも見えず、ものきよげなるうちとけ姿に、花の雪のやうに降りかかれば、うち見上げて、しをれたる枝すこし押し折りて、御階の中のしなのほどにゐたまひぬ。督の君続きて、
 「花、乱りがはしく散るめりや。桜は避きてこそ」
 などのたまひつつ、宮の御前の方を後目に見れば、例の、ことにをさまらぬけはひどもして、色々こぼれ出でたる御簾のつま、透影など、春の手向けの幣袋にやとおぼゆ。
(源氏物語・若菜上~バージニア大学HPより)

をしきかなやよひのそらにはなちりてこすゑにすさふうくひすのこゑ
(千五百番歌合~日文研HPより)

たいしらす 大中臣能宣朝臣
ちる花にせきとめらるゝ山川のふかくも春の成にけるかな
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

雛屋(ひいなや)のあたりも、なほめづらかなる事ども添ひて、池の藤波は、紫の雲にまがひ、八重山吹は、井手の里にもこえて咲き乱れたり。青葉の桜などは、なべて一木(ひとき)二木(ふたき)、まれなる物とこそ見慣れたれども、数を尽くして咲き続きたるさま、まことの花盛り無徳(むとく)に圧(お)されぬべし。
(恋路ゆかしき大将~「中世王朝物語全集8」笠間書院)

 西明寺の牡丹花の時、元九を憶(おも)ふ
前年 名を題する処(ところ)、
今日(こんにち) 花を看(み)に来(きた)る。
一(ひと)たび芸香(うんかう)の吏(り)となりてより、
三(み)たび牡丹の開くを見る。
あにひとり花の惜(をし)むに堪(た)ふるのみならんや、
まさに知る老(おい)の暗(あん)に催すを。
なんぞいはんや花を尋ぬるの伴(とも)、
東都に去っていまだ廻(かへ)らず。
なんすれぞ知らん紅芳(こうはう)の側(かたはら)、
春尽きて思(おもひ)悠(いう)なる哉(かな)。
(「漢詩大系12白楽天」集英社)

こかくれてはるのすゑにそなりにけるきしのやまふきいろまさりゆく
(能宣集[花山院献上本]~日文研HPより)

うら若きやよひの野辺のさいた妻春は末葉になりにけるかな
(六百番歌合~岩波文庫『六百番歌合・六百番陳情』)

もののふのやよひといへは梓弓はるの末にも成りにけるかな
(百首歌合-建長八年九月十三日~日文研HPより)

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弘安六年三月県召除目の中の日、雨のふり侍けるに、前大納言為世いまた兵衛督にて参議をのそみ申けるついてに 前大納言為氏
年をふる杜の柏木この雨にもれぬめくみの春をしらはや
返し 照念院入道関白前太政大臣
さりともとたのみをかけよ春雨にもれぬめくみは君にまかせて
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

のそむ事かなはさりける年の、三月の始つかたまて庭の花さき侍らさりけれは 藤原宗秀
身こそかく春のめくみのよそならめ花さへ時をしらぬ宿かな
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

貞和のころ三月の始つかた、うれへあはすること侍しついてに申をくり侍し 按察使資明
老はつるおとろの道の下草は春のめくみにあふかひもなし
返し 前大納言為定
思ひしれめくみを頼む春にたにあはぬおとろの道の下草
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

やまひかきりに侍ける春、三月の廿日あまり迄庭の花をそく咲侍けるによめる 従三位藤子
折しもあれ心つくしにまたれすはことしはかりの花は見てまし
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

弘安元年三月、藤原景綱ともなひて西山の良峰といふ寺にまうてゝ、外祖父蓮生法師旧跡の花のちり侍けるをみて人々三首歌よみ侍けるに 前大納言為氏
尋きて昔をとへは山里の花のしつくも涙なりけり
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

やよひの比、源頼之朝臣か遠忌に嵯峨の墓所にまかりたりけるに、雪のふるを見て 源満元朝臣
思はすよ花をかたみのさかの山雪に跡とふ千世の古みち
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

洞院摂政のことを思ひてよみ侍ける 前右大臣〈忠〉
わかれにしむかしの春を思ひ出て弥生のけふの空そかなしき
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

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(安貞元年閏三月)一日(庚辰)。天晴れ、風烈し。貞応二年核を埋めし梨木の花、初めて開く。
二日(辛巳)。朝天陰る。去々年の春、継ぐ所の八重桜の花又開かんと欲す。之を以て心神を養ふ。冬春の間に栽うる木、皆以て枯れず、葉各々萌ゆ。(略)
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)


「吹き流す」用例

2015年03月15日 | 日本国語大辞典-は行

 「吹き流す」という単語は、日本国語大辞典・第二版によると、「①細長い布や紙片、また髪の毛などを風になびかせる。(用例:14c後)」という語釈と「②水の上に浮いている物などを、風が吹いて流す。(用例:1603-04年)」という語釈があります。
 さかのぼる用例を探していたら、以下の二つの用例を見つけました。どちらも②の語釈の方だと思います。(石清水若宮歌合の和歌については、厳密には「水の上に浮いてはいない」のですが。擬人化した「風」が口からフッーと息を吹きかけて、霞を吹き払う、というイメージで「水の上に漂っている霞を、風が吹いて流せ」と詠んでいると思いました。)

山風や霞ふきながせ吉野川しらゆふ花の色ぞくもれる
(220・石清水若宮歌合-寛喜四年・30)
『新編国歌大観 第五巻 歌合編 歌集』角川書店、1987年、575ページ

いこま山秋のもみぢを吹きながせ手染しらなみ天の川かぜ
(10・草根集、4834)
『新編国歌大観 第八巻 私家集編4 歌集』角川書店、1990年、163ページ