私はそんな里依子を見て、どうして彼女がこれほど私が札幌に残ることに執着したのかどうしても理解できなかった。一人で帰りたいというどんな理由があるのだろう。私は電車の中でそんなことばかり考えていた。
札幌から千歳に向かう列車の中で二人の間には重苦しい空気が流れ、互いに口を開こうとはしなかった。ただ列車だけが動いて車窓の風景が白々しく流れてゆくのだ。私は虚ろに走り過ぎる景色を見つめるばかりだった。私たちは二人並んでいつまでも無言で立ち続けた。
しばらくして里依子が黒いショルダーバックから文庫本を取り出して読み始めた。誘われるように私が目をやると、その本は私には見慣れた伊藤整の『若い詩人の肖像』だった。私が伊藤整の記念碑を求めて旅している間に、里依子が書店で買い求めて読んでいると話してくれた本なのだった。
いましがたの心の行き違いから、二人の間の隔たりを意識していた私の心が再び彼女を近くに感じて、急に心がほぐれていくのだ。
HPのしてんてん
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