里依子につられて、私は持ってきた伊藤整の詩集を取り出して開いた。そこには『忍路』と題する詩があって、私は言葉少なにその詩を里依子に見せた。
昨日忍路の話をすると、そこにはまだ行ったことがないと言い、近くにそんな素晴らしいところがあるなんて知りませんでしたと嬉しそうに応えたのだった。その彼女の声があまりに印象的であったために、私はとっさにその本を里依子に差し出したのだ。
里依子はそれを受け取り、その詩を目で追った。『忍路』の横に『Yeats』という詩が並んでおり、それを見た里依子は私もイエーツを大学でやりましたと、淋しげに弱々しい笑いを交えて応えた。
どうしてこうなったしまったのか、里依子との会話はただ悲しみを呼び起こす。
並び立つ彼女の横顔は、私には理解できない淋しい翳りがあって、それはほんの数時間前の美術館で交わした笑顔とは正反対のものだった。
HPのしてんてん
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