突然明るい声が私の後ろから里依子の名を呼んだ。
その声は里依子と私の間に割り込んできた。赤いセーターを着込んで、両の手にビールのビンを持って立っている。その若い女性は里依子の同僚だった。急にその場が盛り上がって、彼女と里依子は手を取ってはしゃぎ戯れあった。
その印象は私にはいいものだった。
里依子は彼女に私を紹介した。
「話はよく伺っています。」
赤いセーターの女性はそういって私をまじまじと見、そして微笑んだ。屈託のない素朴さと幾分幼さの残った明朗さは、私を思わず微笑ませてくれる魅力があった。そしてよく伺っていますと言って笑いかけるこの女性こそ、里依子が書いてくる親友に違いなかった。
彼女は私達のグラスにビールを注いで、いさぎよく奥の部屋に入っていった。そこにはいつの間にか里依子の同僚達が席を占めているようで、彼女が入ると部屋の中がひとしきりざわめいて活気付き、何人かの女性が障子から覗いて里依子に目の合図を送る者もいた。その目は悪戯っぽく、そして可愛らしかった。
こうした若く爽やかな活気は、好きな職場ですという里依子の言葉を裏付けるように明るく屈託がなかった。そしてこの自由な空気と若々しいエネルギーに満ちた仲間達の饗宴を羨ましいと思うのだった。
そのような賑わいが、この小さな居酒屋にあふれるばかりになり始めた頃、
「もう出ましょうか。」と里依子が言った。
HPのしてんてん
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます