私はなんとか里依子を取り返そうと試みた。
男の話の節々に私の理解出来るところがあるとすかさず話しを割り込ませて、会話を私の方に持ってゆこうとした。
するとそれは男の一言でかわされてしまい、話の流れは変わらなかった。私の挑戦はまるで太刀筋を見切られた二流剣士のようにオロオロと剣を振り回すばかりなのだ。
あるいは強引に、二人にしか分からない会話に里依子を誘うと、その間合いに男の声が巧妙に入り込み、すぐに私達を引き離した。
どうあがいても、この太った男に勝ち目はなかった。男は私が里依子の真の相手であるということをいっこうに解せず、苛立つ私とは対照的に、実にのどかに悠長に酒を飲みながら話を止めなかった。
そして私は性懲りもなく無益な戦いを挑んで、そのたびに里依子は、その間にはさまれてあちらを向いたりこちらを向いたり忙しかった。
この窮状を救ってくれたのが里依子の同僚達であったのである。
HPのしてんてん
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