一二、最後の決戦
ある日、それは突然のことだった。赤ちゃん星が育っている暗黒星雲の中に、想像すらしなかったブラックホールが出現したのだ。気が付いたときには、ブラックホールは恐ろしい勢いで、暗黒星雲のエネルギーを吸い込み始めていた。
ブラックホールはいくら食べても満腹しない亡者のように、赤ちゃん星のために必要なエネルギーを吸い込み続け、ついには赤ちゃん星を丸裸にしてしまい、その周辺に、巨大な無の空間を作り出した。
その勢いは暗黒星雲を丸ごと吸い込んでも、止まりそうになかった。ブラックホールによってはぎ取られた空間はすでに暗黒星雲の半分近くになっていた。エネルギーが与えられないために、力尽きた赤ちゃん星は、一つ、また一つと、ブラックホールに吸い込まれて行くのだ。
エネルギーの流れに沿って進んで来たスケール号が見たものは、そんな恐ろしい光景だった。 ぽっかり開いた漆黒の穴の周辺に、エネルギーのガスがごうごうと渦巻いてそのまま巨大な穴にに落ち込んでいた。渦巻く赤いガスが深い穴の奥に落ちてゆく。赤いガスの色はその奥の方から、腐ったような紫色に変わり、そこから邪悪な気配が吹き上がっているのだった。
「こ、これはひどい。」博士は次の言葉が出なかった。
「これは、なんなのでヤすか。」
赤いエネルギーが、巨大な滝壺に落ち込む水のようにはじけ、限りない深みに落ち込んでいる。その実体を隠すかのように、もうもうと赤いガスが広がり立ち上がってくる。ここが宇宙空間でなかったら、ゴウゴウと、体を押しつぶされるような轟音がとどろいていただろう。
「ナイアガラの滝を赤く染めたような眺めだスが、みなあの穴に落ち込んでいるのだスな。」
「宇宙に穴が開いたような・・・・もしや、これ、前に見たブラックホールじゃ・・・、艦長、これはもしかしたら・・・」
「たぶんそうだろう」艦長に悪い予感が走った。
「しかし、こんな所にブラックホールが出来るはずがないんだが。」博士が考え込んだ。
考えられない所にブラックホールが生まれている。一体これはどう言うことなんだろう。どう考えても分からなかったが、現実に目の前にある光景は、ブラックホールそのものだった。
「博士、もしかしたら、チュウスケのしわざではないでしょうか。」
艦長が博士に向かって言った時だった。
ブラックホールの口から、どろりとした紫色のエネルギーがスケール号目がけて吐き出された。不意を突かれたスケール号はまともにそのエネルギーを受けて、弾き飛ばされてしまった。スケール号の船体にバチバチと稲妻のような火花が飛び散り、光の帯がくもの巣のように張り付いた。
吹き飛ばされたスケール号は体勢を整えて飛び上がろうとした。
「博士!スケール号が言うことを聞きません!」
艦長が叫んだ。
「何、一体どうしたんだ。」
「分かりません! ぴょんた、もこりん、ぐうすか、スケール号に被害はあるか。」
「異常ありません。」
「異常ないでヤす。」
「異常ないだス。」
「スケール号飛べ、飛ぶんだ。」
「ニニャゴゴー」「フンニャゴゴゴー」
スケール号はしかしピクリとも動かない。動けないのだ。
「チュハハハハ、スケール号また会ったな。」
「お前はチュウスケ。」
大きな口を開けたブラックホールが動いて、そこに巨大なチュウスケネズミの姿が浮かび上がった。ブラックホールと思ったのは、実はチュウスケの口だったのだ。ブラックホールの口をしたチュウスケの大きさはもう、宇宙そのもののように見えるのだ。どんどんと宇宙のエネルギーを吸い込んで、チュウスケはどこまでも大きくなっているのだ。
「どうだ、動けまいチュウ。」
「チュウスケ、やめるんだ。ここは赤ちゃん星が育てられている所だ。お前のために、たくさんの赤ちゃん星が死んでいっているのだぞ。」
「それがどうしたチュウのだ。」
「お前に少しでも、優しい気持ちがあるのなら、このエネルギーを吸い取るのだけはやめるんだ。」
「ばかなことを言うんじゃないチュウ。わたチュは宇宙の支配者になるのだチュウ。今に、すべての宇宙を飲み込んでやるだチュウ。」
「そんなことをさせるものか。」
「ばかめ、今のお前に何が出来るだチュウ。」
「こんなバリアーなんかぶっちぎってやる。」
「ゴロニャアアアン!!」
スケール号が、ぐぐっと体を膨らませ始めた。めきめきと光のバリアーが引き伸ばされ今にも引きちぎれそうになった。
「ばかめ、者共打ち合わせどおりだ、かかれ!」
「ほいきたポンポン。」
「ほいきたカウ。」
チュウスケが叫ぶと、スケール号の背後から、子分のタヌキとカラスが現れた。ポンスケとカンスケだ。
大きな四角い箱を二人でかかえ持っている。
「ニャゴゴゴーン!!!」
スケール号の船体に蜘蛛の巣のような光のバリアがめりめりと喰い込んでいく。
「急ぐのだチュウ。スケール号がバリアーを破ってしまうチュぞ。」
「へい、ポンポン」
ポンスケとカンスケはさっと移動して、スケール号の背中に引っ付いた。そして、あっと言う間に四角い箱をスケール号の背中に取り付けたのだ。二匹は急いでスケール号から離れ、チュウスケの横に並んだ。
「親分、うまく行きポンした。」
「親分、成カウですカウカウ。」
「よくやっただチュウ。」
「ギャオオーン!」
バチッバチッバチッ。
その時、スケール号は光のバリアーを断ち切って体を拡大させた。
「さあ、チュウスケ、覚悟しろ。」
自由になったスケール号はチュウスケの頭上高く舞い上がった。
「チュハハハハハばかめ、お前の背中に取り付けたのはこんな銀河など丸ごと吹き飛ばすことが出来る素粒子爆弾だチュ。あと五分でお前はばらばらになるのだチュウ。」
「ひえーっ艦長、素粒子爆弾だと言ってますよ。五分で爆発って、そんな!」ぴょんたが耳を波型に震わせて言った。
「落ち着け、そんなもの振り落としてやる。スケール号、体を小さくするのだ。」
「ゴロニャン」
艦長はスケール号の大きさを変えてやれば、背中に付けられた素粒子爆弾は簡単にはずれるだろうと思ったのだ。
しかし、スケール号が小さくなると、爆弾の方も、小さくなった。逆に大きくなっても、爆弾まで同じように大きくなるのだ。つまり、素粒子爆弾はスケール号の体と一体になってしまっていて、どんなにスケールを変えて逃げても同じことだった。
「艦長、だめでやス。爆弾ははずれないでヤす。大変でヤす。どうするんでヤす。怖いでヤす。死にたくないでヤす。」
「どうしたらいいんだスか。」
「素粒子爆弾なんて聞いたことがないですが、博士、原子爆弾より強いのですかぁぁ」
「素粒子は大きさがないといわれている。つまりそこに閉じ込められているのは無限大の力なのだ。それが爆発したら、我々は砂より小さな塵になってしまうだろう。なんとしても止めなければ。」
「チュハハハハ、今度こそ、終わりだチュウ。あと五分だチュ、せいぜい楽しむんだチュな。チュハハハハハ」
チュウスケは声高らかに笑った。その声は暗黒星雲全体に響き渡ったのだった。
あやうしスケール号、助かる道はあるのだろうか。
つづく
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宇宙の小径 2019.7.26
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頭脳のこと
空間はエネルギーそのものである
そして空間から物質が生まれる
それが物質の最小の単位
素粒子だ
素粒子をつなぎ止めるもの
それもまた空間である
空間は物質の間にあって
次々と
より大きな構造物をつくる
素粒子
↓
原子
↓
細胞
↓
組織
↓
そして頭脳
考え方を変えれば
素粒子は空間によって原子をつくる目的を与えられている
原子は細胞を造り上げる目的が与えられている
物質はどれも己の存在に対して
新たなものを生み出す目的を持っていると言えるのである
だが
物質の最高の構造物
頭脳はどうだろう
頭脳はそれ自体完成された物質である
これ以上の物質は存在しない
頭脳が集まって
より高度な物質が出来る訳ではないのである
頭脳は物質の最高の構造物
最終目標なのだ
頭脳の中で
空間は
物質とかかわらない
頭脳には目的は与えられていないのである
これは物質の連鎖の中で
驚くべきことではないだろうか
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