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塩谷の駅は時代に取り残されたように、ひっそりと立っていた。待合室には老人が腰をおろして、半分眠っているようだった。
時刻表を見ると、目論んでいた列車の到着は2時50分となっていた。駅の時計はすでに3時を回ろうとしていた。次の列車は1時間後だと分ると、私は列車を諦めて引き返し、国道に出ようと決心した。
それにしてもこののんびりしたダイヤを見る限り、伊藤整の時代の通学列車はもう走っていないのかも知れなかった。そう思って駅舎の待ち人に聞いてみると、その通りの返事が返ってきた。ほとんどの学生は、国道を走るバスを利用していると云うのだった。
山の中腹を走る列車より家並をめぐる路線バスの方が便利なのだろう。そのことがなぜか淋しいことのように思われて、私は撫ぜるように寂れた駅舎を眺めた。
その駅前に電話ボックスが立っていた。急に里依子のことが思い出された。なんとかして彼女との連絡の方法を確保しておかなければならなかったのだ。
私は誘われるように電話ボックスに入った。電話機の横に古びた電話帳がつりさげられていたが、そんなものには目もくれず、私は今日泊まる予定にしていて宿泊を断られたホテルに再び電話をかけた。
財布の中には10円玉が数枚入っており、私はその中の1枚だけを残してすべてを電話機に入れた。
電話はすぐにつながった。しばらくお待ちくださいというホテルの電話交換手の声があってすぐにフロントを呼び出してくれたが、呼び出し音が続くばかりで、フロントは一向に出なかった。
かなり辛抱強く待ってみたが、いつまでたっても呼び出し音だけが続き、苛々してもう一度かけ直そうと思った時、ようやくフロントが出た。
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