
私は歩いた。どこに行こうなど頭には何もなかった。ただ私の前に真っ直ぐに伸びて行く道があった。私は降りかかってくる重苦しく悲しい思いを振り切るように必死で歩いた。
もしや里依子が追いかけて来はしまいかと、そんな思いもあったが、私はもう振り向くまいと決心した。そしてただ歩くのだと思った。こうして必死で歩いているうちは、自分に歩くという目的を持たせておくことができるのだ。歩くために歩けばいい。
しかしいくらも行かないうちに、私は我慢できなくなって後ろを振り返った。たとえ追いかけてこなくても、まだ私を見送っているかも知れない。
そこにはもう里依子の姿はなかった。
私は再び、激しい気持に押されるように歩き始めた。彼女に対する怒りに似た気持ちも幾分あっただろう。けれどもそれは一瞬のひらめきに過ぎなかった。私はそのように憎む事も出来ない自分に腹を立てた。
そんな自分をアスファルトの道に踏みつけるようにして進み、自分の気持のすべてをつま先に集めて足を踏み出すのだ。



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