のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

スケールマシン(スケール号の冒険)

2019-09-04 | 5次元宇宙に生きる(一人旅通信)

    一八、神ひと様

 

  ついにやって来たのだ。みんなは窓の外の光景に釘付けになった。

 初めて見る神ひと様。長い旅の果てにようやく巡り会う事が出来るのだ、その姿の一部始終を見逃さないようにと、誰の心も踊っていた。

  だが、どうした訳か、次第にあらわになってくる光景は、乗組員達の心を裏切り始めたのだ。

  人肌を接写したカメラが対象を捕らえながら、スーッと後ろに引いて行くと、やがて人物の全体像が現れ、たとえば芝生の上に寝転がっている人物の姿が映しだされるだろう。ところが、意外にも、スケール号の前に現れて来たのはただの風景だけだった。そこには神ひと様の姿はどこにもなかったのである。

 スケール号の乗組員達が体験した光景は、まさにそのような不可思議なものだったのだ。どこを見回しても、人物らしい姿は見えなかったのである。

  神ひと様の大きさまで拡大したスケール号が降り立った所は、見たこともない植物が生い茂った世界だったのだ。

 一瞬誰もが、「雪」と思った。

  周辺の森も、遠くの山も、一面真っ白だった。

  スケール号の足元の草や地面も一様に白く輝いている。

 目の前に、白い湖が霧に包まれるように広がっていた。霧の中に、すべてが閉ざされている。そんな感じだった。

  よく見ると、それは雪ではなかった。世界から色が抜け落ちたとしか言いようのない光景だったのだ。どこを見ても色彩に染められたものは見当たらなかった。

  岩も、草も、木も、すべてのものが、脱色したような無色の世界が広がっている。それは雪景色とは違った、ドキッとする光景だった。

 博士も艦長も、ぴょんたも、もこりんも、ぐうすかも、皆、黙ったままだった。誰もが一瞬、神ひと様の事を忘れて、その異様な光景に圧倒されていた。

  「まるで夢に出て来る天国のようだス」

 ぐうすかが放心したようにつぶやいた。

 「ここはどこでヤすか」

 もこりんがつられるように口を開いた。

 「ここは本当に天国なんでしょうか。」

 ぴょんたの耳はくの字に折れ曲がっている。

  「博士、ここは神ひと様の世界なのですよね」

 艦長が不安そうに聞いた。

  「その筈なのだが・・・」

 博士は考え込んでいる。 どこを見回しても神ひと様の姿は見えなかった。

 「神ひと様はどうしたのでヤすか。」

 「どうしてここに神ひと様がいないんですか。」

 「神ひと様はどこにいるのだスか。」

 もこりんも、ぴょんたも、ぐうすかも、思いつくままの言葉を口に出した。不安なのだ。スケール号の前に現れた光景は、想像していた世界と、あまりにも掛け離れていた。ここに優しい神ひと様の姿が在るはずだったのだ。そして、そのことに一番戸惑っているのは博士だった。

 「一体我々はどこから出て来たのだ。・・・」

 博士は必死で考えていた。確かにスケール号は、神ひと様の体内からやって来た。そこから外に出たのだから、すぐそこに神ひと様がいるはずなのだ。それは博士の揺るぎない確信だった。しかし実際にここには神ひと様の姿はなかったのだ。では、我々はどこから来たのか。この光景の中のどこから、スケール号は飛び出して来たのだろう。

 「外は安全のようです。まず、外に出て調べてみましょう。」

 船外の環境を示すデーターを見ながら、艦長が提案した。

 「そうするしかあるまい。」博士が賛成した。

 「行くだス。」

 「行きましょう。」

 「行くでヤす。」

 こうして、スケール号の乗組員達は初めて神ひと様の世界に足を踏み入れたのだ。

 白一色の世界は、思ったよりも穏やかな空気が流れていた。梢を渡る風の音と、小鳥の声がみんなの心に落ち着きを与えてくれた。しっとりした霧の粒子がみんなの体にまとわりついて来た。すると不思議なことが起こった。霧が色を吸い取るかのように、皆の色を消していくのだ。博士も艦長も、にぎやか3人組も、皆真っ白になってしまったのだ。

 「もこりん、お前真っ白だスよ。」

 「ぐーすかだって、怠け者のシロクマみたでヤす。」

 「艦長も、博士も、真っ白です。」

 色が変わらなかったのはぴょんただけだった。というより、もともとぴょんたは白色だったので、変わったのかどうかわからない。それが皆のちょっとした話題になった。

 突然おしろいを振り掛けられたようになって、その上、神ひと様はどこにも見当たらない。

 「せっかく楽しみにしていたのに、留守なのだスか。」

 ぐうすかがつまらなそうに言った。

 「とにかく調べてみるのだ。」博士は辺りを見渡した。

 「あの湖の方に行って見ましょう。」

 そう言って艦長は歩きだした。その後にみんなが続いた。 

 白い湖はそんなに大きなものではなかった。水面には霧が立ち込め、まるでドライアイスの煙が溜まったようにうごめいている。この白い世界は、この霧がつくり出しているのかもしれない。そのおかげでスケール号の面々もみな白くなってしまった。きっと神ひと様もこの霧の中に隠されているのだろう。

 「神ひと様!」

 もこりんが湖に向かって叫んだ。すると、水面の霧がその声に応ずるようにもこもこと揺れた。まるでモグラが畑の土を押しのけて進むように、、声の方向に霧の道が出来るのだ。

 「神ひと様!」

 今度はぴょんたが叫んだ。また霧が揺れた。

  「神ひと様!」

 ぐうすかが叫んだ。誰よりも大きな声だった。ぐうすかの声が水面を通って行くように、霧がもこもこと動いて踊った。

 「これはどうした訳でしょう。博士、もしかしたら、・・・・」

 艦長は最後の言葉を言わずに博士を見た。

 「声の波が霧を動かしているのだろう。地球では見られない現象だが、声がまるで光線銃のように、拡散しないでまっすぐ進んでいるようだな。」

 博士は自分のあごを手でしごきながら言った。

 「でも、なんだか霧が生きているように見えますね。」

 「よし、今度はみんなで呼んで見るだス。」

 「じゃあ、せーの、」

 「神ひと様―!」

 「神ひと様ー!」

 最後は博士も加わって、呼び声は白い世界にこだました。湖面の霧が大きく動いてその向こうに島影が見えた。

 

  つづく

 

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宇宙の小径 2019.9.4

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のしてんてん

それは

どこまで行っても

己の世界ということだ

 

知識は

己と己でないものを区別しようとする

この皮膚は私だが

皮膚の内側と外側で

私と私でないものが分かたれる

それが知識だ

 

つまり

心と知識は似ているようで非なるもの

この非なるものが重なり合って

己を包む一枚のシートになっているのだ

それを心と思っている

動かしがたい

一つの心だと思い込む

 

しかし苦悩は

重なった二つのその隙間から生まれている

そんな風景が

見えてくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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