のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

スケールマシン(スケール号の冒険)

2019-09-06 | 5次元宇宙に生きる(一人旅通信)

「あっ、花だス。」

 「ほんとでヤす。ほら、あの島のまんなかに見えるでヤす。」

 霧で隠されていた島が現れたとき、その中央に咲く一輪の花が初めてみんなの目に止まったのだ。花は幾分オレンジがかった色味を帯びて、白い風景の中で浮かび上がるような光を放っているのだった。ここから見えるのだから、かなり大きな花に違いない。

 「博士、あれは何でしょう。」

 「もしかしたら神ひと様と関係があるのではないだスか。」

 「きれいですね。」

 ぴょんたの耳が揺れていた。

  その島を、再び霧が包み始じめた。すべてが白い風景の中に隠れてしまった。それでも意識を持った隊員たちの眼には、霧を通してオレンジ色の光がかすかに見えているのだ。意識を持たなければけっして気付かないほのかな光だった。

 「あそこに行って見ましょう。」艦長が博士に言った。

 「渡れるでヤすか。」もこりんが心配そうに聞いた。

 「とにかく池の周りを歩いて見よう。」

 博士はそう言って歩き始めた。湖をしばらく歩いた時だった。

 「博士、艦長!足跡があります!」

 ぴょんたの興奮した声が聞こえた。みんなは一斉に、声の方に駆け寄った。白い砂の上に、確かに人の足跡が残されていたのだ。

 「でかした、ぴょんた。」博士は興奮してその足跡に見入った。

 足跡は真っすぐ続いて湖に消えていた。その向こうに、小島がうっすらと湖に浮かんでいるように見える。見ようとしなければわからないが、確かにオレンジの光もその方向に見えるのだ。

 「これは神ひと様の足跡に違いありませんよ、博士。神ひと様はあの島にわたったんですよ。」

 「すると、ここから歩いて行けるのでしょうか。」ぴょんたが島を見ながら言った。

 「ちょっと待って欲しいだス。」

 「どうした、ぐうすか。」

 艦長が、ぐうすかの方に目を向けた。ぐうすかは、しゃがみこんで足跡を調べていた。

 「艦長、これを見るだス。」ぐうすかは足跡を指さした。

 「この足跡は、湖の方に向いているのではないだス。湖の方から来たのだスよ。」

 「何だって。」

 「ほら、この足跡、湖に近い方が深く沈んでいるだス。ほら、ぴょんたの足跡を見ればよく分かるだスよ。」

 ぴょんたは湖にお尻を向けて立っていた。その足跡を比較すると、確かにぐうすかの言うとおりだと、皆は納得した。

 「なるほど、」

 「ぐうすか、探偵みたいでヤすね。」

 「それ程でもないだス」

 ぐうすかは得意げに胸を張った。見かけ倒しの業に頼らないぐうすかは、自信に満ちあふれているのだ。

 「ではまず、この足跡をたどってみよう。」博士が言った。

 足跡は乱れなく、一直線に続いている。艦長達は注意深く足跡を追って行った。すると足跡は湖から幾らも離れないところで消えていたのだ。交互についていた左右の足跡が、そこで両足が揃って止まり、それから先に足跡は無い。つまり消えているのだ。

 「神ひと様はここで立ち止まったのですね。」

 ぴょんたが、ぐうすかをまねて言った。

 「そしてここで突然消えたのでヤすか。」

 もこりんも探偵気分だ。

 「なんだか気味が悪いですね。」

 遊び心が消えると、ぴょんたは心細そうに言った。

 神ひと様の手掛かりはそこから完全に消えてしまっているのだ。本当に神ひと様は消えてしまったのだろうか。

 仕方なく皆は湖に戻った。その一直線上にぼんやりと島が見えている。

 「あそこに行けるだろうか。」

 「わたしに任せて下さい。」

 艦長は博士に向かって言った。艦長は空を飛ぶブーツを履いているのだ。

 「私も行きます。」

 ぴょんたが言った。ぴょんたは耳を羽ばたかせて空を飛ぶことが出来る。

 「気を付けてな。」

 「分かりました。」

 艦長とぴょんたは、同時に空を飛んだ。空から見下ろすと、湖の形がよく分かった。ほぼ円に近い形をして、その真ん中に島がひとつ浮かんでいる。よく見ると、その島まで、一本の道が通っていた。その道は博士達が立っている岸辺まで続いているのだ。足を少し濡らすだけで、岸から中島まで歩いて行けるらしい。

 艦長は博士達にそのことを伝えた。

 スケール号の仲間たちは、空と陸から湖の中心に浮かぶ小さな島に渡った。そこは一周しても数分で回れるような円形で、底の浅いお椀をかぶせたような丘になっていた。それは自然に出来たものと言うよりむしろ、人工の遺跡のようにも見える。つまり円形の古墳といえばいいだろうか。口には出さなかったが、皆がそんなイメージを持っていた。

 その丘の中央に、白い矩形の箱が横たえられている。恐るおそる近づけば、それは石棺そのものだった。石棺は石の蓋で閉ざされている。石棺の側面はつたのような植物が寄生するように石と同化して這いめぐっているのだ。不気味と思えば、ぞっとする光景だった。

 そのつたが、石棺の頭の側で何本ももつれるように固まって、一抱えもあるような編上げの幹をつくり、それが天に向かって伸びあがっている。

 幹は隊員達の目を自然に白い天に向けさせた。するとそこに、オレンジ鮮やかに咲く大輪の花がああった。白一色の世界に、その花は目に染み入るように鮮やかだった。

 「岸から見えたのは、あの花でヤすな。」

 「きっとそうだス。」

 「それにしても、これは何でしょうか。なんだかひつぎのように見えますが。」

 艦長は博士に聞いた。

 「まさにこれはひつぎだな。」

 博士は白い石造りの箱に近づき、ていねいに調べながら言った。博士の意見を聞いて、隊員たちはうろたえたようだ。

 「やっぱりここは墓なんでヤすかぁ~。なんだか怖いでヤすよ。」

 「ひえっ!何かが動いただス。」

 ぐうすかがもこりんに抱き着いた。つられてぴょんたも艦長とくっついた。

 「大丈夫だよ。何も出てこないよ。ご覧、動いたのは木の葉だ。」

 博士は、真っ白な木の葉を拾い上げて皆に見せた。島の周りに木立があるのだろう。風が木の葉を一枚、石棺の上に舞い落としたのだ。

 博士の言葉に一同は、その手に揺れている葉っぱを見た。そして視線を周囲に泳がせた。

 その時だった。

 もこりんの素っ頓狂な声が島中に響いた。

  「あっ、この花、この花でヤす。思い出した!思い出したでヤすよ!!艦長。」

 

  つづく

 

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宇宙の小径 2019.9.6

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鉛筆の粒子

 

温かい黒

心が丸まっていく黒

無機質の黒

内なる輝きを持つ黒

鉛の黒

 

黒と黒の間にある黒

目覚めた黒

有機の中の永遠の黒

有機を生み出す無機の黒

赤い黒

青い黒

黄色い黒

黒い黒

 

黒い粒子が

許すと

言っている

 

 

 


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