しばらく私たちはそれぞれの本に見入っていた。
私は詩集の文字面を辿ってはいたが、読むことなどとても出来なかった。心を本の上に留めておくことが出来ずに、もうこれで里依子と会えないのかという思いばかりが繰り返す浪のようにやって来る。
里依子が私と一緒に帰るのを拒んだのは、あるいは私が彼女の寮まで未練たらしく付いて行くことを嫌がったのかも知れない。
いろいろに考えあぐんだ末に私はそう思いいたった。千歳の駅で別れよう。別れ際に握手をして、せめてその手の暖かさを感じていたい。柔らかな手に口づけをして逃げるように里依子から離れよう。そんなことばかりを、私は本の文字を追いながら考えていた。
ふと里依子のため息が横合いから聞こえ、その時々に私は心をかきむしられるように感じた。にもかかわらず私は里依子を正面から見ることが出来なかった。
HPのしてんてん
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