流れる水は冷たく澄みきっていて、人を寄せ付けないような厳しさが感じられた。その水の中に一切の無駄を取り除いた魚たちが黒々と身を引き締めて泳いでると思うと胸が熱くなってくる。夕陽に映えて白く輝くさざ波のその水底にまで感覚が及んで、私は涙ぐむほどに心を動かした。そして同時にこの千歳川が、今しがた別れて来た里依子に似ていると思うのだった。
その時川の中央に黒いものが見えた。私はそれをクマだと思った。そう思って見るとクマが無心に魚を獲ろうとして川底をじっと見透かしているように見え、今にも魚をつかみ取ろうと両手を構えているように思われた。
それを確かめようと近づいたが、道路から向こうは深い雪と雑木近寄れずに確認できない。先を進めば川は杉林に隠れてしまった。
杉林はすぐに切れて再び川が見えてきた。その川の対岸には釣り人が糸を垂れている。するとあれはただの岩だったのかとすこし残念な気持ちになった。
もしあれがクマだったら・・・、そう思うと、クマと人間が隣り合って魚を獲ろうとしている姿が浮かんできて私の心を和ませた。
川は寄り添い、大きく身をくねらせて遠ざかったと思えば近付いて、軽妙なせせらぎと岸部の活気ある光景を見せてくれた。
HPのしてんてん
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