私の心は少しずつ和んで行った。千歳の自然はたわいない激情には取り合わず、逆に心を和らげて体を開かせてくれるようだ。
私は自分がこのように自然の中に抱かれてしか生きてゆけないような、甘えん坊のように思えた。社会の中で私のようなものは弱者に違いなかったが、しかし私の本心はここにしかありようがなかった。私は自分を惨めな人間と認めたくはなかったが、しかしだからと云って心を欺いて、苦痛を与える生き方は出来ないのだと自分に言い聞かせた。
どんなにみじめなことでも、自分をすべて認めて受け入れたら自然は私を取り巻いて優しく包んでくれるように思えるのだ。
かなり歩いたと思う頃に橋があって、そこから一本の支流が合流していた。内別川と知れ、橋はその川に架かっているのだ。その川は、たった今蛇行して遠ざかった千歳川の半分もない川幅をしており、千歳川とは対照的に静かでのんびりと流れていた。両岸から常緑の雑木が茂り、青葉に埋もれるようにひっそりと眠るように横たわっていた。
その流れは私の心までも静かにしてくれるように思われた。
HPのしてんてん
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