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私の想いなど誰にも見えるはずはない。男の話は延々と続き、いつ果てるとも知れなかった。それに応ずる里依子のにこやかな態度は、自分でも言っていたように、おそらく職場で培われた笑顔であるに違いなかった。
そう思うと、その一方で、それでは私に見せる笑顔もまたそうしたものだろうかという考えが生まれてきた。
里依子の私に対する態度もまた、彼女の本心からのものではなかったとしたら・・・こうした考えが不用意に現れて私の心に突き刺さったのだ。それはまだ大きな痛みとはならなかったものの、早春の日差しが突然雲に奪われてしまったときのように、悲哀を肌に感じないわけにはいかなかった。するといつまでも男に対応する里依子に対してさえ、腹立たしさを覚えるのだった。
だがそれは多分に私の思い過ごしであることを心の底の方では理解していたために、こうした考えは風のように私の皮膚を通りこして行った。
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