前年の秋に里依子が京都にやってきたとき、二人で古都を散策しながらしみじみ言った彼女の言葉を、私は思い出していた。
「北海道ではとてもこんな静かなお寺は出来ないんです。」
そう言った里依子の姿が謙虚であったために、意外な言葉であったにもかかわらず私にはそれがそのまま里依子の心であるかのように感じたのだった。
そのことで随分気を良くした私は、京都の社寺を案内できることにどれほど喜びを覚えたことだろう。
黒ペンキで塗り固められた鉄パイプの鳥居はその里依子の言葉をそのまま裏付けているのだ。そのことに思い致ると、なんとも名状しがたい感情のたなびくのを感じないわけにはいかなかった。
おそらく北限のこの地においては、心の救いを神仏に求めようとするよりもなお、現実に直面した厳しい自然の中で生き抜くために必要な自身の力に頼るしかなかったのではなかろうか。
HPのしてんてん
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