小さな漁船が二艘、入江の口付近で停泊していた。暗い鏡のような海面の上に、その漁船は鉛色にうかびあがり、まるで絵を見るような心持になる。そこには心を激しく惹きつけるような不思議な物語が流れているように思われた。
二艘の漁船は互いに寄り添うようにして静まり、その情景が私の心のリズムとよく合って響きあう。私はしばらくそこから目を離すことが出来なかった。
あたかもすべてを許しあった恋人たちであったり、老成した見事な夫婦愛を見るような、深い想いが盛り上がる胸を突いた。そしてこれは旅人の感傷には違いなかったが、二艘の静かに寄り添った漁船が忍路の心そのものではないかと思うのだった。
停泊する漁船に重なるように、忍路港の入江口が見えている。外海に開いた入江は湖のような港の沖に小さく口を開いており、二艘の船がその口を塞ぐように浮かんでいる。その二艘が並んで港を出ていくことは出来ないと思われるほど入江の口は小さく窄められている。
その入江の口から湾内はほぼ円形に近い椀曲を見せて内海はさざ波さえなく眠るように静かなのだ。
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