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私はそんな老婆の姿を心の方に焼き付けてそのまま通り過ぎた。まばらに立ち並ぶ家々はどれも寂滅とした感があって、そこをぬって通る小道を歩きながら私の思いもまた内の方に向って行くようであった。
様々なことを思い描きながら道をしばらく行くと、突然目の前に忍路の港が広がった。その一瞬のイメージが、私が思い描いていたものを越えた。大きすぎもせず、小さすぎもしない、心いっぱいいっぱいの港がそこにあった。
道はそのまま進むと道は前方がコンクリートの壁に遮られた三叉路に行き当たる。その左右の道が港を取り巻いて続く沿道であると知れたのは、そのコンクリートの壁の向こうを覗いた時だった。
その壁の向こうに忍路の港が隠れていたのだ。それを見たとき私は、濱風のなぜしこのような人の面影はそのままこの港のひっそりした、つつましい美しさの中に残されているのだと思った。
港はそのように質素であり、調和のとれた美しさを持っていた。まるで湖のように静かに横たわっている。
入江はその両翼から小さな岬が取り囲み、両腕を丸く湾曲して抱え込んだように海を優しく抱きしめている。胎内から外海に向って開かれた小さな開口部それがこの港の入江口だった。
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