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この静かな港が心をとらえるのは、黒々と眠る海面と水際の所々に不思議な岩のせいかも知れない。
その岩は蝋燭の炎のような形をして水面に立っており、見る者の心に不意打ちを与えた。近寄れば随分大きいだろう岩柱は、化石となった大木が元折れて風化したような趣があるのだ。
あるいは海岸にそって佇む質素な家のたたずまいがこの忍路の港をより印象付けているのかも知れない。それは言ってみれば、この地が観光地と化し、無情な商業主義が進出すればたちどころに壊れてしまうような、危うげな美しさを持っているといえるだろう。
このように忍路は、周りを小高い山に囲まれ海に向かってつつましく口を開いて息づいているようであった。ひっそりと人目を避け、変化を求めずここにあり続けたというふうがあり、私の心までもひっそりとさせるようであった。
迫りくる夕暮れの中で、忍路は無言で横たわり、その浜辺で子供達だけが楽しげに遊んでいた。子供達は棒きれを持って駆け回り、私に対して注意を向ける様子もなかった。犬が一匹仲間に加わっていて、子供達の歓声と犬の鳴き声だけが忍路に活気を与えているようであった。
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