のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

ジイジと北斗(新スケール号の冒険)22

2022-09-08 | ジイジと北斗(新スケール号の冒険)

(14)-1

 

バリオン星の王宮には大きな物見の塔がありました。最上階に登ると、

そこには豪華に設えられた王様の執務室がありました。老練な物見たちが

絶えず四方の空を眺めています。彼らは裸眼でも巨大望遠鏡に匹敵する

眼力を持っているのです。

皆の心配をよそに、王様に会ったその第一声が何と、スケール号を「太陽族の使い」と称してくれた

のです。太陽の紋章を持つ者に解り合うための言葉はいらなかったのです。

そのバリオンの王様が博士の横に立っています。

二人は物見の塔の欄干に手を置いて虚空を眺めているのです。

博士の後ろには艦長の揺りかごを守るように、もこりんとぐうすかそしてぴょんたが皆、

お腹をそらせて空を眺めています。苦しくてお腹をくの字に曲げられないので、

空を眺めるのはちょうどいい姿勢だったのです。

 「フンギャー、フンギャー」

それまで機嫌のよかった艦長が突然泣きはじめました。

「ほら、もこりん。出番ダすよ。」

ぐうすかが嬉しそうに言いました。

「はいはい艦長、ちょっと待ってくれるでヤすか。」

もこりんはいつの間にか艦長のおむつ係になっていました。

何度も被害に遭ったもこりんでしたが、案外嬉しそうで、艦長のほっぺをつんつんして

揺りかごの中からおむつを取り出すと、手際よく交換を始めました。時々ある噴水被害には

汚れたおむつで防ぐ術も覚え、今やもこりんは艦長のおむつ係りを誰にも譲らないのです。

その光景をバリオンの王様とお付きの者達はいぶかしげに眺めていました。

というのも、バリオン星の赤ちゃんは下半身裸で育てるのが普通でした。

汚れるのが分かっているのになぜわざわざパンツをはかせるのか誰も理解できなかったのです。

けれども赤ちゃんの笑顔は誰の目にも微笑ましいものです。

「おうおう、もこりんありがとう。」

博士がお礼を言って機嫌のよくなった艦長を抱き上げました。ずっしりと重さが腕に

伝わってきました。北斗は順調に育っているのです。すると博士は、どうしてものぞみ赤ちゃんを

思い出してしまうのです。今も産院の保育器の中で必死で生きようとしているはずです。

その証拠が、今いるこの静かな宇宙であり、こうして会見している王様そのものなのです。

王様がいる限りのぞみ赤ちゃんは健在なのだ。博士は確証のないままそう信じているのです。

その横にスケール号が座り、毛繕いし顔を拭いています。金色の毛がとても気に入って

いるようです。スケール号の隊員たちは、まだ先ほどまでの信じられない光景と

歓迎会の賑わいに酔っているようでした。

色とりどりの食べ物や飲み物が山のように並んだ食卓。見たことも無いきらびやかな料理は

どれもおいしいくて、コックのもこりんを驚かせましたし、ぐうすかはもう料理皿を手当たり次第です。

青赤黄色のサワーにオレンジ色のピザ風焼きもの。パンのような食感なのに、

かむほどにジューシーになるフルーツ。ぐうすかによれば、お腹にたまるフルーツだそうです。

思わず口の中がいっぱいになってしまうこってり味が、一瞬でとろけてなくなる肉料理。

ぐうすかの至福はいつまでも尽きません。ぴょんたは興奮して花畑のような食卓の上を

飛び回っていました。もちろん艦長だけはミルクで満足していましたけれど。

そればかりではありません。フルオーケストラの楽団が見たことも無い楽器を打ち鳴らし、

水の太鼓がしぶきのハーモニーを奏でるのには驚きました。コーラスと舞踊が皆を興奮させて、

スケール号もリズムに合わせて何度も宙返りしたほどです。それを見たバリオンの歓迎団が山鳴り

のような喝采をおくると、もう迎賓の間は緊張の糸が切れた凧のような大宴会となったのでした。

 

それはつい数時間前のことでした。

スケール号は迎賓の間に通されました。乗組員たちはその巨大さに圧倒されて、

身を固くするばかりでした。

すぐそばの装飾された丸柱は、隊員達3人が手をつないでも一周できないほどでした。

天空を思わせる巨大なドームの天井があり、中天には大きな太陽のレリーフが飾られ、

そこから炎の彫刻が四方八方に伸び拡がっています。

豪華な彩色を施された神々の彫像が、至る所で炎をまとって舞い踊っているのです。

迎賓の間に入ったものは誰もが首を真上に捻じ曲げて見とれてしまうでしょう。百人掛けの

食卓が左右に三卓ずつ並び、中央の床には磨かれた五色石が敷き詰められて巨大な円を

描いているのです。その円盤の中央に立つと、真上に太陽のレリーフがあってすべてを威圧

するように見下ろしてくるのです。左右にある食卓のさらに向こうにはアーチ形の大きな扉が

ありました。正面には高い台座がしつらえられ、左右に階段がありました。朱の欄干と黄金の

絨毯がまぶしく思えます。その台座の下には三段ステップの舞台が横たわり、どこからも

その舞台に上がることが出来ます。舞台の大きさだけでもテニスコートが十分にとれそうです。

その舞台の上には純白の長いテーブルとイスが広間に向かって並べられていました。

特殊な照明が当てられているのでしょう、そこだけが心に染み入るように白く輝き、

いやでもテーブルとイスが浮き上がって見えるのです。

スケール号から降りた乗組員たちはただ茫然と息をのむばかりでした。

何より驚いたのは人の数でした。両側の巨大な食卓には正装した人々が整然と座っていましたし、

正面には純白のテーブルを挟むように楽隊が整列しているのです。

案内に従って迎賓の間に足を踏み入れた時、左右の食卓から一斉に人々が立ち上がり

拍手が鳴り響きました。その拍手は隊員たちが石畳の中央に進むまで鳴りやまなかったのです。

するとそれを合図に楽隊が力強いファンファーレを吹き鳴らしました。


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