いろいろに考えを巡らせていると、ついに行かずに終わろうとしている余市に対する未練がわずかに湧き上がってきた。だがそれは、今日のうちに札幌に帰らなければならないという思をしのぐものではなく、やがて私は忍路のバス停に立っているのであった。
そこには数人の先客が並んでいた。私はこのバス停が小樽方面かどうかを訊いただけで、列の後尾で黙々と自分の世界をさ迷うのだった。
すぐ横に見えるトンネルは、ひっきりなしに通る自動車のエンジン音で切れ目のない耳鳴りのような轟音を立て続けていた。それはあたかも、私の中で人格化された忍路の岬のはらわたの喘ぎのように思われて、いくらかの気味悪さを感じないわけにはいかなかった。
それでも海は静かで、水平線の彼方までゆっくりと夕暮れを受けれていくようであった。
幾ばくもしないうちにバスがやってきて、いかにもあっけなく私を小樽の街に連れ去っていった。
忍路 == 了 ==
HPのしてんてん
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