忍路の岬の付け根の所にバス停の赤い丸板のついた支柱が小さく見えていた。そこで国道が岬と直角に交差している。この岬を貫いて道は蘭島に至り、そこからさらに余市へと続いてゆく。蘭島から余市の方に向かうと、すぐにまた小さな岬があって、トンネルが穿たれている。トンネルを抜けると小さな川が流れている。
伊藤整と根見子はその川に架かる橋を渡り、海岸の方に下りて砂浜の渚を余市に向かって歩いて行ったのである。胸の軋む思いに駆られながら、二人は互いに相手を意識しながら、黒く濡れた砂ばかりを見つめて歩いたのだろう。
その砂浜をしばらく行けば、二人が並んで腰かけた灌木の生えた草むらがあるはずであった。若い二人の情熱を燃え上がらせたその草はらは珍しくもない風景であっただろう。しかし若い二人にとっては特殊な意味をもつ場所となったのである。
そう考えてみれば、蘭島から余市に向かう海岸もまた私の心を掻き立てる魅力を持っているのではないかと思えるのだった。
HPのしてんてん
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