ばい菌X発見(3)
のしてんてん博士はみんなの顔を一通り眺めてから話を続けました。
「スケール号が目に見えない小さな粒よりも小さくなって、金網のような穴を通り過ぎると緑色のソーダ―水の粒が見えてくるだろう。
そのソーダ―の粒が並んでいる世界に入ったらスケール号は再び大きくなるんだ。
でも大きくなりすぎてはいけない、ちょうどばい菌の大きさで止まること。そうでなければスケール号の体でグラスが割れてしまうからね。」
「という事は博士、ガラスの粒はばい菌よりずっと小さいという事でヤすか」
「そうなんだ、たとえば地球と銀河ぐらい大きさが違うのだよ」
「でも、本当にそんな簡単な事でソーダ―水の世界に行けるんですか」
艦長がききました。
「本当だとも。ただし一つだけ注意しておくことがある。この旅は艦長が言うように決して簡単なことではない。小さな粒の事を素粒子というのだが、スケール号がそんな大きさになったら、たったこれだけのガラスといっても宇宙のような広さになってしまう。普通に飛んで行っては何十年もかかってしまうだろう」
「何十年もだスか、そんなにかかったらクリームソーダ―が腐ってしまうだス」
「ところがスケール号にはワープの力がある。小さくなって宇宙空間が見えてきたらソーダ―水の世界までワープするのだ、できるかね艦長」
博士は艦長を見ました。
「何とかやってみます」
艦長は自信がありませんでしたが、博士と一緒に隊員たちが一斉に艦長の方を見ているものですからつい見栄を張ってしまいました。そして少し震えた声で言いました。
「では行ってまいります」
艦長は泣きそうになりながら博士に言いました。
「まて、私も行こう。君たちだけではあまりにも危険すぎる」
「でも博士、からだの方は大丈夫ですか」
「なあに、もうすっかり元気になったよ」
博士はドンと自分の胸をたたき、誰よりも早くスケール号に乗り込みました。
魔法使いのチュウスケもまるで最初から隊員だったように博士に続いて乗り込みました。
艦長も勇気が出て来たようです。みんながスケール号に乗り込むのを見てから、自分もゆっくりとスケール号に乗り込みました。
なんだか海賊の船長になった気分なのです。艦長は出発前にみんなを集めて言いました。
「諸君、スケール号はこれよりガラスの世界に出発する。我々は素粒子という一番小さなものの世界に入っていくのだ。誰も行った事のない未知の世界に違いない。どんな危険が待っているか分らない。諸君にはこれまで以上に頑張ってもらいたい。以上だ」
艦長は自分の偉さに胸が張り裂けそうでした。
ばい菌X発見(4)
「ミツバチの大きさになれ」
艦長はスケール号に命令しました。またたく間にスケール号はミツバチと同じ大きさになりました。そして床から飛び上がってクリームソーダ―のグラスに向って飛んで行きます。
グラスが目の前に迫ってくると、艦長は再びスケール号に言いました。
「スケール号、素粒子の大きさになれ」
艦長は手を握り締めながら全身に力を込めて命令したのです。
「ゴロニャ―ン」
スケール号はミツバチの大きさから更に小さくなっていきました。
ゴクンとのどがなり終わったころにはもうスケール号はばい菌の大きになっていました。
でもグラスの表面はでこぼこが見えるくらいで、博士の言うような網の目の穴はどこにも見えません。
その代わりまわりにはたくさん雲のようなものが浮かんでいます。それは部屋のなかに漂っているほこりなのです。
それでもスケール号はまだまだ小さくなっていきました。スケール号からは今まで見たことのない風景が見えるばかりです。
スケール号が小さくなるにつれて空はだんだん暗くなっていきました。スケール号の隊員たちはみな夜が来たのだと思ったぐらいでした。
グラスの表面のでこぼこした風景がスポンジのような隙間のある岸壁に見えて来たと思うと、すぐに壁のあちこちに不気味な洞窟が現れてきました。
それはスケール号がどんどん小さくなっているためでした。
そしてとうとう世界は真っ暗な宇宙空間になってしまいました。
映画で見るあの宇宙空間と同じ世界が目の前に広がっているのです。
真っ暗な空には無数の星が散らばってキラキラと輝いています。
「すげ―」
「信じられないだス」
「ここは本当にグラスの中でヤすか」
スケール号の隊員たちはみな、我を忘れてグラスの中にある宇宙空間に見とれていました。
星たちは規則正しく並んで、まるで網の目のように連なりながら輝いているのです。
まるで豆電球のイルミネーションを見るようなうっとりした星空なのです。
あの星の網の目のような空間を飛んで行けばソーダ―水の世界にいける。
艦長はそんなことを思いながら操縦席に座っていました。
スケール号はまだ小さくなっているようです。
その証拠に星はどんどん大きくなり、闇の空間は無限に拡がっているのです。
輝いている星の一つに近づくと、それはまるで太陽でした。
その太陽の周りを惑星が回っています。それは地球や火星のような惑星とそっくりでした。
博士はその惑星を指差して言いました。
「あれが素粒子なのだよ。中心で輝いているのはなんだか分るかね?」
「太陽ですか」ぴょんたが答えました。
「そうだ、あれが素粒子の世界の太陽だ。陽子というんだ、覚えておくといい」
「陽子だスか」
ぐうすかが感心したように言いました。
「ついでに言うと、太陽の周りをまわっている星のことを電子と呼んでいるんだ」
「電子って聞いたころがありやス。電子計算機とか電子レンジとか、電子、えっとなんでヤしたかな」
もこりんが考え込むように腕組みして言いました。
暗い空間の中で電子はキラキラと輝く陽子の回りをゆっくりと回っていました。
地球や火星や金星のように赤や青や茶色など様々な色合いを帯びて電子の惑星は太陽の周りをまわっているのでした。
ばい菌X発見(5)
「太陽と、そのまわりを回る地球や火星などをまとめて太陽系というが、ここではそれを原子と呼んでいるんだ。
原子の星たちが輝いている闇の空間は無重力の宇宙空間なんだ。スケール号はそこを通っていけるんだよ」
博士の話はいつの間にか学校の授業のようになってきました。
ぐうすかはもう眠っています。ぴょんたも、もこりんも難しい話は苦手です。博士の話しを聞いているふりをして、グラスの中の宇宙に見とれているのでした。
「博士、ここからソーダ―水の世界に行くには、ワープを使うのですね」
艦長が博士の話の途中に聞きました。
「そうだ、さっそく行ってくれるか」
博士は授業を切り上げて艦長に言いました。
「スケール号、ソーダ―水の世界にワープしろ」
艦長は力いっぱいスケール号に命令しました。
「ニャンゴロニャン」
スケール号が鳴き声をあげると、満天に輝いていた星たちは一斉にスケール号の前方に寄せ集められて、白い光のかたまりになました。
スケール号はその中に飛び込んで行ったのです。
その瞬間世界は真っ白になったように見えました。
そして次の瞬間には白い光はスケール号の後ろに広がり、そこに満天の星空が見えるのでした。
そして目の前には数えきれないほどの星たちが緑色に輝いているではありませんか。
あれこそ博士の言っていたソーダ―水の星たちに違いありません。
「素晴らしい」
ぴょんたは耳をピンと立てて言いました。
まるで緑のきれいな地球がいくつも浮かんでいるような、夢のような世界が拡がっているのです。
「これがソーダ―の世界だよ。艦長、スケール号を大きくするんだ。
でも気をつけるのだ、大きくなりすぎるとスケール号の体がグラスを突き破ってしまう。
ばい菌の大きさでスケール号の大きさを止めるのだ」
「まかせておいて下さい」
艦長はもうすっかりスケール号の操縦に慣れたようです。その声は自信にあふれていました。
「スケール号、ばい菌の大きさになるんだ」
「ゴロニャ―ん」
スケール号はクリームソダ―の中で大きくなり始めました。
それと共に地球のようなソーダ―の原子はだんだん小さくなって行きました。
空間が狭まり、隙間がなくなったと思った時にはスケール号のまわりは緑の液体に変化しているのでした。 それはまさに、グラスの中のソーダ―水だったのです。
スケール号はばい菌の大きさになると動きを止めました。
「きっとこの底の方にばい菌Xがいるはずでチュウチュウ」
魔法使いチュウスケが言いました。
「よし、スケール号、ゆっくりグラスの底の方に進め」
スケール号が旋回しながらグラスの底に向っていったそのときでした。
ぴょんたの興奮した声が聞こえたのです。
「艦長、向こうに赤いものが見えます」
ぴょんたが窓の外を指差しました。みなは一斉にその方を見ました。底の方に、確かに何か赤いものが動いているではありませんか。
「艦長、あれはさらわれたばい菌姫に違いありヤせん」
「するとばい菌Xもあの近くにいるはずだ、スケール号急げ」
艦長が命令したとき、スケール号がぐらりと揺れて船体が浮き上がり始めたのです。
「ギヤ―ッ」
ぴょんたが悲鳴をあげました。
ばい菌X発見(6)
「うわーっ」もこりんもビックリして声を上げました。
「むにゃむにゃ」
いつの間にか眠っていたぐうすかが目をさましました。
「どうした」
博士が駆け寄ってきました。
「スケール号が命令を聞きません!」
艦長が叫びました。
スケール号は艦長の命令に逆らって、上へ上へと登っていくのです。
「スケール号は泡の上に乗っているんだ艦長。このままだとまた上に運ばれてしまうぞ。逃げるんだ」
博士が言いました。
「分りました。スケール号、上に飛んで旋回しろ!それから急降下だ」
「ゴロニャ―ゴ」
スケール号は出来たばかりの泡の上から飛び上がりました。
そしてそのまま旋回して泡をかわすと急降下してグラスの底にむむかいました。
まわりを見ると、いたるところで小さな泡が生まれていました。その泡は次々と上に登っていきながら大きくふくれていくのでした。
「あの泡には気をつけるのだ」
博士はひたいの汗をぬぐいながら言いました。
「分りました」
艦長はじっとソーダ―水を見つめました。
何も無いところから突然白い玉が生まれています。それが泡の柱のようにグラスの上の方まで続いているのです。
けれどもよく見ると、泡の発生するところは決まっているようでした。
艦長は慎重にスケール号を操りながらグラスの底に降り立ちました。
「博士を残して全員船外に出る。すぐに用意しろ」
艦長が勇ましく命令を下しました。
隊員たちは水中呼吸器を鼻の穴に詰め込んで外に飛び出しました。
「泡に気をつけろ、つかまったら上まで連れて行かれるぞ」
博士の声がみんなの耳に聞こえました。みんなの耳には無線機が詰め込まれているのです。
「了解」
みなはソーダ―水の海の中を泳ぎはじめました。
「ばい菌姫を見つけました」
しばらくしてぴょんたが大声をあげました。
「何処だ」
「あそこです」
ぴょんたの指差す方向には真っ赤なものが手を縛られてうずくまっているではありませんか
それはばい菌姫に違いありません。
「姫、助けにきました」
艦長がばい菌姫を助け起こし縄を解いてやりました。
「ありがとうございます」
ばい菌姫はよわよわしい声で言いました。
「ばい菌Xは何処にいったのです」
「気を付けてください。私をおとりにして攻撃するつもりなのです。きっとどこかに隠れています。早く逃げてください」
ばい菌姫は震えながら言いました。
そのときゴゴーッと大きな音がしました。
音の方を振り向くと真っ黒な渦巻きが目の前に迫っていました。
そしてあっという間に全員をはじき飛ばしました。
皆がしりもちをついたところにサングラスをかけたばい菌Xが立ちはだかりました。
ばい菌Xは何本もある手を掻きまでて渦巻きの玉を作っています。
先程よりもっと大きな渦巻きを発射しようと身構えているのです。
逃げ道は何処にもありません。ぴょんたは長い耳を折り曲げて目を覆って言いました。
「助けて」
(つづく)
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そろそろ、明日のトークのことも考えなくては・・・・・
はるひ美術館による北籔和展(ナウイズムの夢)3日目
2017/2/8~2/26
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謳歌しましょうね♪
微力ながらかんばります
今日もどうぞ善き日をお過ごしくださいませ☆
感謝∞8∞八方拝で^す^
今回も、トークの日に今季最低という寒波がやってくるのですから、笑うばかりです。
お気遣いありがとうございます。
PCの力は大きなもので、昨日も、円空仏を追って写真を撮っているという方が、ブログに書いてくれたらしく、
それを見てやってきたという方が、おられまして、そんな方とは深く共鳴し合えるので、特にうれしいお客様になります。
お力添えありがとうございま^す^
感謝、感激^で^す^
こんにちは!
こちらこそありがとうございま^す^
純粋なエネルギーは、
もちろん宇宙と一体である万物すべてに
天与されていると思います。
そして、お花や自然と一体となっている生命は、
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私たち人類は純粋なエネルギーを
発揮できているのでしょうか、
お花や自然と一体となっている生命からは、
学ばせて頂くことが多いですね☆
わたくしなどは反省ばかり恥じ入るばかりですが、
今日もなんとかがんばりま^す^;;
いつもご厚情感謝申し上げます☆
素敵な夕べをお過ごしくださいませね♪
苦悩はそのエネルギーのもつれ、互いに力を打ち消し合っているのかもしれません。
まさに、
野の花に学んで行きたいものです^ね^