しばらくタクシーは無言で走り、塩谷駅という表示板を通り越した。
おや?と思っていると、そこから国道をそれる小道に入り、ぬかるんだ山道を上って行った。道はやっと車が一台通れる程の狭い地道だった。
私は塩屋駅に行ってくれと言った筈だったが、運転手が気を利かせてその生家まで連れて行ってくれるらしかった。
タクシーは歩くようなスピードで車を転がして進み、運転手は右手に見える雪の斜面にあちらこちら目をやっていた。やがて車は脇道いっぱいに幅寄せして窮屈そうに何度か切り返しながらUタウンして止まった。
道の両側はまだ50センチほどの積雪が見渡す限り続いている。その雪原の中ほどに車を止められたのだ。ここではなく、その前後のどこに止まっても何ら変わり映えのしない眺めが車窓から眺められた。
車が入ってきた一本道は左肩から右下がりに広がる斜面を横に伸びて上っていく小道だった。その斜面の下を国道が並行して走っている。そしてその先は日本海だった。
道は海に面したなだらかな山の中腹を横に這い、その向こうの海に突き出た山塊の峰まで続いていて、その峰の切り通しのその向こうに消えていた。
道に沿って続く斜面は海に向かってなだらかに広がり、見えるのは雪と針金だけのブドウ棚であった。
そんな光景の中に、来たときとは反対の向きに車が止まったのである。あたかも無差別に停止したかのように思われて私は戸惑って運転手を見た。すると運転手の方が私よりもうろたえているたのだ。
「確かこの辺なのですがね・・・」
運転手はしきりに海の方に伸びている斜面に向かって首をねじ曲げている。
HPのしてんてん
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます