ホテルに帰ると10時を過ぎていた。幾分迷いながら里依子の寮に電話を入れた。もしも帰っていなかったらどうしよう、今だ心に決めかねていたために、私は祈るような気持で受話器から響く呼び出し音を聞いていた。
里依子はいた。電話に出た女性の声に彼女の名を告げると、その女性は大きな声で里依子の名を呼んだ。そして里依子の声が受話器から聞こえてきた。
彼女は寮に8時頃に帰ってきたということだった。
「ホテルの方に電話したら泊まっていないと聞いたので心配していました。」
里依子の安らかな声が私の心を柔らかく包むように思われた。
昼間何度も電話をかけ、大騒ぎをして頼んでおいた伝言が里依子に伝わっていなかったことを私は言い訳のように説明し、ホテルの不誠実に憤慨してして見せたが、内心は里依子の声が聞こえるだけですべてを許しているのだった。
里依子との会話は朝の重苦しい気分とは違って、心の底から通じ合える響きを持っていて、ただそれだけで他に何もいらないと思える心の幸せを感じていた。
私はゆったりと、ベットに背を伸ばしながら話した。そして里依子は、あのクリーム色の寮の一室でどんな風に電話をしているのだろうと想像しながら受話器を強く耳に押し当てるのだった。
HPのしてんてん
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