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スケール号の操縦室をジイジは懐かしそうに眺めました。
操縦席の前に赤いレバーがありました。操縦かんです。
ジイジはすぐにスケール号を動かしてみたくなりました。
でも操縦席には坐れません。そして気付いたのです。自分が艦長でない理由が分かったように思えました。
いつの間にかジイジになってしまっていたということなのです。
でも北斗だって、この席に坐れないし、操縦かんも握れない。
そう思っていると、北斗を乗せた揺りかごが浮かんだまま操縦席に近づいて行ったのです。
すると操縦席の背もたれが後ろに倒れて寝台のようになりました。
その上に揺りかごが滑り込むように乗っかると、カチャンと何かが固定されるような音が聞えました。
「艦長、基地に戻りましょう。」
ウサギのぴょんたが言いました。
「早く戻るでヤす。」
モグラのもこりんも言いました。
「艦長、食堂のクリームソーダはおいしいダすよ。」
ぐうすかはもうよだれを流しています。
三匹の乗組員たちは互いの持ち場について、艦長の命令を待っているのです。
ところが北斗はすやすやと眠るばかりで、スケール号は動きません。
「駄目だこりゃ。艦長は眠ったままで起きないでヤす。」
「ぐうすか、何とかできないのか、おまえ居眠りの専門だろう。」
ぴょんたが言いました。
ぐうすかはいつもまくらを持っているだけあって、どこでも居眠りできるのです。
「ぐうすかはだめでヤすよ。よけいに眠ってしまうでヤす。」
「もこりんだって、穴掘りしかできないダす。」
「喧嘩はなしだよ、もこりん、ぐうすか。」
「ぴょんただって、何も出来ないでヤす。できるのなら艦長を起こしてくれるでヤすか!」
「博士、助けて下さい。」
ぴょんたがジイジの服を引っ張りました。
「何とかやってみよう」
ジイジはスケール号の操縦室に立っているだけで、艦長だった頃の記憶がよみがえってきたのです。
北斗にそれを伝えればいいのです。でも、どうすればいいのでしょう。
ジイジは北斗の目のことを思い出しました。
北斗がぐずり始めるとジイジはよく北斗をだっこしてやりました。
目と目が合うと不思議に泣き止むのです。
涙に潤んだ眼は真っ黒で、どこまでも深くキラキラ輝く闇の空間に吸い込まれそうになるのでした。
その目に向かってジイジはいつもお話をしてやりました。
北斗はジイジのお話が終わるまでじっと、瞬きもしないで見つめているのです。
宇宙語が分かるのだ。
ジイジは北斗の目を見てその時、分かったのでした。
「北斗、まだ眠いのかな。」
ジイジが優しく呼びかけました。
「よくお聞き、君はスケール号の艦長なんだ。すごいだろう。
北斗は艦長、艦長は北斗。北斗は天才、天才は北斗。」
最後は歌うようにジイジは節をつけて話ました。
「北斗は艦長、艦長は北斗。北斗は天才、天才は北斗。」
ぴょんたがジイジを真似て歌いました。
「北斗は艦長、艦長は北斗。北斗は天才、天才は北斗。」
もこりんがそれに続きます。
「北斗は艦長、艦長は北斗。北斗は天才、天才は北斗。」
ぐうすかも歌い始めました。
(つづく)
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