俺の故郷、糸魚川市は人口五万人の日本海沿いの田舎町。
にも関わらず、酒造会社が五社もある。
昔はもっとあったらしい。
俺の母方の婆さんの実家も、戦前は「姫泉」という大きな酒造会社だったと聞く。
糸魚川に酒造会社が多い謎は、水が美味いということもあるが、昔から糸魚川人は酒好きなのだと、加賀の井酒造さんが言っていた。
そう言われれば、けんか祭りの時の酒の飲み方は壮絶だ。
どこでも見たことないくらい豪快に酒をグビグミ飲み続ける。
加賀の井酒造さんは、新潟県内で一番の老舗だ。
加賀の井さんの玄関先には、雪国独特の「雁木」が残っている。
雁木とはガンギと読み、昔からある木造アーケードだ。
加賀藩の参勤交代のご陣屋だったことから、江戸時代の初めに前田の殿様に飲ませる酒を造ったのが最初らしい。
かっての糸魚川市の繁華街、本町通りに加賀の井さんはある。
裏に回るとこんもりした塚があって、松尾様の祠が祀られていた。
塚には本町通りとは思えないほどに色んな木々が植えてある。
言ってみれば鎮守の森だ。
欅・杉・紅葉・銀杏が色とりどりに冬の訪れを告げていた。
松尾社は、酒造りの神様。
きっと俺の先祖も祀っていただろう・・・なんだか親しみが湧く。
本町通りの裏手に松尾社があるなんて、糸魚川の人でも知らないだろう。