40年前に800部だけ自費出版された幻の名著「古代越後奴奈川姫伝説の謎」の著者である渡辺義一郎さんと浅草で会食。
上越市出身の渡辺さんは、西頸城地方の登山をするうちにヌナカワ姫伝説に興味を持ち、お年寄りを訪ね歩いて口碑を蒐集し、ついには自費出版に至ったそうだ
著作の中では悲劇的な口碑の数々のみならず、大正時代に編纂された「西頸城郡誌」や「天津神社奴奈川神社社伝」、昭和に出版された「糸魚川市史」などの文献もきちんと紹介されており、その膨大な仕事に脱帽する。
渡辺さんは昨今、糸魚川で流布されているヌナカワ姫と出雲の八千穂神の恋物語ではなく、出雲に侵略されたヌナカワ郷という真逆な結論を導きだしておられるのは私同様で意気投合した。
渡辺さんと話し合っているうちに強烈に思いが募ったのは、口碑を語り継ぐ文化が失われつつあること。
二世帯家族であっても家族そろって晩ご飯を食べることが少なくなり、晩ご飯の後は各自の部屋でテレビを観たりゲームしたりと、子供たちが老人から昔話を聞く機会が無くなっている。
ヌナカワ姫伝説に限れば、恐らくは二千年近くも庶民によって語り継がれてきた悲劇の歴史が、今や糸魚川市民でさえ知る人は稀になっている。
口碑は庶民の歴史、地域の文化だ。
私の世代で悲劇の歴史を埋もれさせてはご先祖に申し訳なく、伝説の語り部たらんと切に思う。
渡辺さんの最新作は、東アジアの稲作文化からヌナカワ姫伝説を再検証する意欲作「大国主と奴奈川姫の東アジア」。
糸魚川の人たちに宣伝することは無論だが、「古代越後の奴奈川姫伝説」の再販を熱望するとお伝えした。