温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

福建・広東の旅 その10 従化温泉街を逍遥

2015年10月21日 | 中国
●温泉街
 
 
従化からの路線バスが進んできた道は温泉東路という通りで、流渓河という大きな川の東側を川と平行に南北に伸びています。この通りに沿って、たくさんの温泉宿が並んでおり、私が泊まった「北渓松林酒店」も、老舗「広州温泉賓館」のレセプションも、その他の各大規模旅館もこの通りに面していて、中国では珍しい本格的な温泉街が形成されています。通りには宿名とともに「客室あるよ」や「入浴できるよ」のサインを出した看板も立っており、通り沿いにはお土産屋さんもずらっと並んでいます。


 
通りにはレンタサイクルの自転車もたくさん並んでいましたが、何しろ連日の大雨ですから活躍できず、「温泉路」バス停前の空きスペースに大量駐輪されていました。また豪雨に街の排水が追いつかず、温泉街の随所で冠水が発生しており、右(下)画像の箇所では脛まで浸かるほどの水嵩まで道路が浸水していました。こんな状況で靴を履くのは無意味なので、温泉街の中を散策する際には、持参していたサンダルが大活躍してくれました。海外旅行ではどの国でもとにかくサンダルが役に立ちます。


 
温泉街を流れる川が氾濫寸前になるほどの大雨で、とても観光するような状況ではなかったのですが、それでもこの日は週末だからか、日が暮れる頃になると、温泉街には次々に宿泊目当ての車が押し寄せ、そうした車に対する客引き合戦が温泉東路のあちこちで繰り広げられるようになりました。通り沿いの温泉旅館は、少しでも目立とうと、派手なネオンサインを輝かせていました。


●温泉街での食事
(1)夕食
 
私が泊まった宿は素泊まりでしたから、夕朝ともに温泉街へ繰り出して適当に店を探しました。まずは夕食から。温泉東路から一本東側で並行している通りにはレストランが固まっているところがあったので、あてもなくその中の一軒に入ってみました。
私が座った席の前方の壁に貼り出されていたチラシによれば、この店の名物は「野生土狗仔」、つまり野生コオロギ。イナゴの佃煮なら私も食べたことがありますけど、コオロギはちょっと・・・。東南アジアではコオロギを食する地域もあると聞いたことがありますが、広東人も好んで食べるんですね。広東人は「飛ぶものは飛行機以外、泳ぐものは潜水艦以外、四つ足は机と椅子以外なんでも食べる」と言う表現に改めて納得です。


 
さすがに昆虫食は御免蒙りたいので、この時は無難に麻婆豆腐とスペアリブのフライを注文しました。麻婆豆腐は完全に広東風のマイルドな味付け。むしろ揚げ物の方がピリ辛で、ビールが欲しくなる味付けでした。


 
温泉街にはスーパーマーケット(中国語で「超市」)が数軒あるので、買い物に不自由しません。上画像ではスーパーマーケットの右隣に銀行ATMが並んでいますが、このように温泉街にはプラスやシーラスが使えるATMも数カ所あるので、現金調達の心配も不要です(スキミングの危険性まではわかりませんが…)。
先ほどのピリ辛料理でビールが欲しくなった私は、食後にスーパーマーケットに入って、夜食用のおつまみと一緒に缶ビールを購入しました。今回手にした銘柄は「ハルビンビール」なるもの。その名の通り旧満州の黒竜江省で生産されており、1900年にロシア人が設立した中国最古のビールとして、知る人ぞ知る老舗ブランドです。味に関しては…あんまりおいしくないかな。


(2)朝食

翌日の朝食は、温泉東路と流渓河に挟まれた「毅華温泉酒店」というグレードの高そうなホテルに入ってみました。玄関前の看板には朝食だけでもOKという旨が書かれており、実際にスタッフに尋ねてみたところ「2階のレストランへどうぞ」とのことでしたので、他のお客さんと一緒にエレベータで2階へ上がってみました。


 
2階のレストランは川を臨む明るい大広間で、家族連れを中心に大勢のお客さんで賑わっていました。広州市街から近い場所にあるためか、悪天候なんか関係なく、週末を従化温泉でのんびり過ごすファミリーが多いんですね。このレストランはセルフサービス式ですが、料金は固定ではなく、食べた品数や品目によって異なります。はじめに手渡される伝票を片手にしながら、セルフで自分の好きな料理を取るのですが、その際に伝票を各料理の前にいるスタッフに提示して、料金分のスタンプを捺してもらい、最終的にスタンプの合計数に応じた料金を精算するという仕組みです。



メニューは大変豊富でより取り見取り。どれも美味しそうだったので、全部食べてみたかったのですが、今回は点心類を中心に上画像のものをチョイス。実際にいずれも美味かったのですが、この3品で〆て53元(1,000円)という朝食にしてはやや贅沢なお値段。ホテルだから高いのかなと思いつつ、食後にフロントに掲示されていた宿泊料金表を見てビックリ。なんと一番安い部屋ですら1180元(22,000円強)もするのでした。もちろん実際にはその表示価格から割引されるのでしょうけど、それにしても高い価格設定ですし、そんな高い宿なのに館内はお客さんで溢れているのですから、中国の富裕層には恐れ入ります。


●広東温泉賓館
 
従化温泉に数ある旅館の中でも随一の老舗であり且つシンボル的存在でもある「広東温泉賓館」。レセプション(左or上画像)は温泉東路の「温泉路」バス停前にあるのですが、それ以外のすべての施設は川の対岸の広大な敷地に広がっており、構内図を見るだけでも巨大な豪華リゾート施設であることがわかります。建物に入らず敷地内を散歩するだけなら自由なので、傘をさしながら簡単に構内を歩いてみることにしました。


 
連日の豪雨を受けていまにも氾濫しそうな濁流を渡り、対岸のゲートをくぐります。


 
ゲートをくぐった左側の擁壁には、室内温泉プールを紹介する写真が並んでいました。これらを見る限り、温泉プールはみんなでワイワイ楽しむための施設であり、日本の温泉風情とは縁遠いものであることがわかります。右(下)画像には電動カートが写っていますが、これは広大な構内を移動するためのものであり、このカートは定期的に園内および対岸のレセプションを巡回しています。


 
  
この旅館はそもそも共産党幹部の保養所のような存在であり、迎賓館のような機能も果たしたようです。擁壁には過去ここを訪れた著名人の写真が並べられていました。左上(最上)の画像は中華人民共和国の第2代国家主席である劉少奇が1959年と1961年に当地を滞在した際のもの。温泉で寛いでいたこの時の劉少奇は、まさかその後の文革で自分が標的となって非業の死を遂げるとは想像だにしなかったことでしょうね。劉少奇に続いて紹介されている右上(上から2番目)の画像はおなじみ周恩来で、1957年、1959年、1960年と少なくとも3回この温泉へ訪れているようです。こうした共産党の歴代幹部のほか、ベトナムのホーチミン(胡志明)(左下or上から3番面の画像)、そして米中国交正常化の立役者であるニクソンも写っています(右下or最下段の画像)。ただニクソンの写真は1976年に撮影されたものらしく、この2年前に彼はウォーターゲート事件で大統領をすでに辞任していますから、私的な旅行あるいは何かの特使で訪中した際に、この従化温泉にも立ち寄ったのでしょう。


  
とにかく敷地は広大ですから、利用客は定期運行の電動カートのみならず、自分の車でも構内移動していました。右(下)画像の建物はレストラン棟らしく、ちょうど朝食時だったので、大勢のお客さんがひっきりなしに出入りしていました。



ゲートをくぐった先の真正面の、最も目立つ場所に立っているのが「嶺南第一温泉」の碑です。嶺南、つまり南嶺山脈より南側の地域(ザックリ言えば華南エリア)で一番の温泉だ、という意味かと思われます。この石碑の下からは湯気が上がっており…


 
石碑の下に据え付けられている石の湯溜まりには、70℃近いアツアツの温泉が張られており、中を覗いてみますと赤いネットに入った温泉卵がつくられていました。さすがに激熱のお湯を直に触れることはできなかったのですが、簡単にテイスティングしたところ、無味無臭であっさりしたタイプのお湯でした。従化温泉は花崗岩の岩盤を走る断層から噴き上がって湧く非火山性の温泉であるらしく、同じような仕組みで地下深くから湧き出す非火山性温泉としては、日本では愛媛県の道後温泉など西日本で多くみられますが、温泉が生成される過程が似ているためか、この従化温泉も道後温泉に似たような泉質であるように感じられました。


 
さらに奥へ進むと、潅木の中に周恩来と思しき銅像を発見。その先へと続くゲートをくぐったさきには…



先ほどゲート前の写真で紹介されていた室内温泉プールがありました。内部も様子に関心はあったものの、温泉マニアの一人旅に温泉プールは似つかわしくありませんし、そもそもお湯のクオリティを楽しむ施設ではないでしょうから、今回は外観を眺めるだけにとどめておきました。


●広東省幹部療養院

私が宿泊した「北渓松林酒店」の手前には「広東省幹部療養院」という厳めしい名前の宿泊施設が隣接していました。名前こそ堅苦しいのですが、役人とは無関係な一般客も利用可能であり、「広州温泉賓館」に引けを取らないほど、こちらも広大な敷地と多くの施設を擁しています。上画像に写っているレセプション棟はいまいち冴えない外観なのですが…


 
道標や案内図で記されているように、構内には宿泊棟を含め施設が何棟も建てられており、宿泊棟のひとつである右(下)画像の「北渓一号」棟は、レセプション棟に隣接する好立地である上、各客室にバルコニーが設けられており、外観も綺麗で、なかなか立派な建物でした。


 

「北渓一号」棟の前には、この療養院のメイン施設である広い温泉プールが設けられており、外来客はプールだけの利用も可能なのですが、この日は悪天候のために残念ながらゲートがクローズされており、私がプールを撮影している時はたまたま雨脚が弱まっていたので、スタッフが槽内のお湯を抜いて、デッキブラシで清掃していていました。できれば利用しようかと考えていたのですが、お湯を抜かれては無理ですね。



プールの奥には「万茘泉」と名付けられた立派な建物がどしんと構えており、黒塗りの車が何台も駐車されているその建物の玄関には「老幹部休養所」とも表示されていましたから、おそらく広東省の役人でも上級の肩書きを持つ人間が利用するためのものなのでしょう。

雨は一向に止む気配がなく、どの温泉施設も悪天のため露天風呂は閉鎖されたまま。内湯のお風呂が利用できるホテルもあるのですが、料金が高い割にお湯の質には不安を覚えるので、利用しようという気も起こりません。
もうこれ以上この温泉地にいても意味が無いように思えましたし、この日の夜には香港から帰国する飛行機に乗らなくてはいけなかったので、午前中の散策を終えた段階で、この従化温泉を経ち、まずは広州へ戻ることにしました。

次回に続く

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福建・広東の旅 その9 従化温泉 北渓松林酒店

2015年10月19日 | 中国
前回記事の続きです。

従化バスターミナルから路線バスに乗ること約45分で従化温泉街の中心部にたどり着いたわけですが、まだこの晩の宿を決めていなかったので、まずは豪雨の中をウロウロして宿を見つけなければなりません。バス停の正面には、従化温泉を代表する名門温泉旅館「広州温泉飯店」のフロント棟がありましたので、まずはそこを訪ねてみたのですが、フロントのお姉さんは雨でズブ濡れの一人旅の外国人を見て「こいつは金が無さそうだ。うちみたいな名門宿とは不釣合いだな」と値踏みしたのか、一応空室を調べる小芝居を打たれた後に「満室です」と慇懃無礼に断られてしまいました。


 
温泉街には規模の大小を問わずたくさんの宿があり、その全てを一軒一軒訪ね歩けば、混雑する週末であっても、間違いなく自分の予算に見合った宿が見つかるはずなのですが、なにしろ傘が全く役に立たないほどのものすごい豪雨ですので、この時の私はできるだけ早く屋根の下に入って宿を決めたい心境でした。でもバス停周辺で看板を出している大規模旅館は、みなそれぞれ結構な値段(日本円で一泊10,000円以上)を提示しており、足元を見られて安易に妥協し、相手の思う壺にハマるのも癪に障ります。そんな葛藤に悩んでいると、バス停からちょっと奥まったところに「露天温泉池」と記された大きな看板を出す質素な外観の宿「松林酒店」を見つけ、ここなら何とかなるだろうと、一か八かで訪ねたところ、玄関で客引きをしていたおじさんがこちらへ近寄り、部屋だけでも見てくれと声をかけてきましたので、日光猿軍団の元校長に似ているそのおじさんの後について館内へ入ってみることにしました。


 
通された客室はツインルーム。テレビ・エアコン・冷蔵庫などひと通りの設備が揃っており、中国茶のセットも用意されています。Wifiも飛んでおり、不安定で途切れ気味ですが、とりあえずそこそこ使えます。後述するバスルームにはバスタブが備え付けられており、おじさん曰く温泉のお湯が出てくるとのこと。お部屋の中身はともかく、おじさんが提示した値段が250元(約4,500円)と他宿に比べて安く、何よりも温泉に入れるバスルームが付帯していることが決め手となり、藁にもすがりたい思いも相俟って、ここで一晩を過ごすことにしました。



おじさんは部屋のドア施錠に関する説明で、鍵だけではなくチェーンもちゃんと掛けてね、と念を押していたのですが、実際にフロントで鍵をもらってその意味がわかりました。上画像で、番号札の上に写っている金属の板が部屋の鍵なのですが、鍵にあるべき溝や凹凸がなく、単なる薄っぺらい板に過ぎないのです。これをドアノブの穴へ差し込むだけで簡単に解錠されてしまうため、別にこの鍵が無くても、おそらく穴に入る薄い板があれば客室の中に入れちゃうものと思われます。このため外出時は貴重品のみならず、盗まれたらイヤなものは一式まとめてバッグに詰め込んで携行しました。幸いにして、この時は何の被害にも遭いませんでしたが…。


 

こちらは客室に付帯しているバスルームの様子。洗面台には歯ブラシや入浴剤(女性の写真がプリントされているもの)などのアメニティーが用意されていましたが、いずれも低品質で、歯ブラシは磨いているうちにブラシが口の中でバラバラになってゆくひどい代物。備え付けのタオルも何度洗濯されてきたかわからないほどゴワゴワで、これで体を拭いていると肌にヤスリをかけているかのようでした。
洗面台のカランには、心臓病・高血圧・酒に酔った人は温泉入浴に不向きであるという説明プレートが掲示されていたのですが、これって即ちバスルームのお湯は温泉であるという証拠になるのでしょうか。


 
バスタブにはシャワーのほか、壁に直付けのバルブがあり、それを開くと槽内の穴からお湯が吐出されました。おじさん曰く、これは天然温泉とのこと。


 
穴から出てくるお湯のデータを計測したところ、温度は49.3℃でpH7.8でした。疑い深い私は、入室時、夕方、深夜、早朝と、時間をあけて(施設側がボイラーを止めていそうな時間帯を狙って)何度もお湯を出してみたのですが、その都度この吐出口からはしっかりと安定した温度と量のお湯が出てきましたので、おじさんの言うように、このお湯が天然温泉である信憑性は高いかと思われます。
浴槽は一人がゆったり寛げるサイズなのですが、それに対して吐出量が決して多くなく、バルブを全開にしてもお湯が十分に溜まるまで20分以上要しました。


 
ようやくお湯が溜まりましたので、いざ入浴です。浴槽内部は洗い出しで仕上げた石風呂のように見えますが、底面こそ石板タイルであるものの、側面はモルタルの上に洗い出しの模様をプリントした壁紙(ビニールシート)を貼り付けているだけ。さすが中国、手を抜けるところはちゃんと抜いており、安普請丸出しです。
お湯は無色透明でほぼ無味無臭。日本の温泉で例えるならば、愛媛県の道後温泉に近い感じで、良く言えば癖が無くてアッサリサッパリしており、悪く言えば掴み所のない没個性な質感であるため、中国という国情もあり、これが本当の温泉なのか疑念を抱かずにはいられません。しかしながら、中国の水道水でシャワーを浴びたときのような硬い感じは無く、むしろ弱いツルスベ感すらあり、湯上りにはパワフルに火照って、長い時間にわたり汗が止まりませんでした。その浴感や湯上り後の温まりから推測するに、やはりここのお湯は本物の温泉なのでしょう。意外に良いお湯だと思います。なお館内に温泉分析表に相当するようなものは見られませんでした。


 
 
雨に打たれながら宿探しをしていた私は、正面玄関横の看板に大きく書かれていた「露天温泉池」という文字に心が揺り動かされたわけですが、てっきり宿泊者は自由に使えるのかと思いきや、利用には別料金が必要で、その金額はなんと150元(3,000円弱)というとんでもなく高い設定だったのです。しかも私の訪問時は豪雨だから使用中止とのこと。それが分かっていれば別の宿を選んでいたかもしれませんが、尤もこの日は他の宿もおそらく悪天候を理由に露天風呂を閉鎖していたでしょうから、この時ばかりは天候を恨む他ありませんでした。見学だけなら勝手にどうぞとのことでしたから、このように写真だけ撮らせてもらいましたが、深夜一時的に雨脚が弱まった頃にこの露天風呂から歓声が聞こえてきましたから、150元支払ってもこんな狭苦しい露天風呂を利用する客がいることに驚きました。利用の都度お湯を張り替えるお風呂ですから、お湯は綺麗なのでしょうけどね。


 
露天風呂の他、館内には別料金で利用できる内湯もあるのですが、こちらの料金は何と200元(4,000円弱)とのこと。もちろん定価ではなく、そこから幾らかの値引きが行われるものと思われますが、それにしても高すぎますね。



このような大きな内湯もありましたが、こちらについては料金を伺っていません。

従化温泉には他にもたくさんの温泉旅館がありますから、もし当地で宿泊なさる場合は、私みたいに雨に負けて妥協せず、しっかり宿探しをして、ご自分のニーズや感性に合ったお宿に出会えるといいですね。


従化バスターミナルから4番の路線バスに乗り「温泉路」バス停下車、徒歩1~2分
広東省広州市従化区温泉鎮温泉東路132号
ホームページ見当たらず
(「北溪松林酒店」ではなく「北溪湖景酒店」でネット検索すると、この宿を紹介するサイトにひっかかります。どちらが正しい名称なのか、よくわかりません)


私の好み:★
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福建・広東の旅 その8 従化温泉への道程

2015年10月18日 | 中国
前回記事で取り上げた「五華熱鉱泥温泉」で泥湯を楽しんだ晩のこと。私が中国大陸に上陸した日から降り続けている雨が、未明に俄然勢力を強め、ログハウスの屋根を激しく打つ雨音で目が覚めてしまうほどの酷い状態となったのですが、不安になって電気を点けようとしても電化製品はうんともすんとも言わず、ドアを開けて周囲を見回したら、あたりは豪雨の中で完全なる闇に包まれていました。どうやら停電になっちゃったみたい。停電は朝食直前まで続き、復旧した時には心底ホッとしたのですが、しかし復旧したばかりのテレビに映るニュースでは、連日の豪雨によって深圳など広東省南部の道路で冠水が起き、一部では洪水状態になっていることが報じられていたため、私がこれから向かうルートがもし土砂崩れや洪水などによって行く手を塞がれたらどうしよう、という新たな不安が眼前に立ちはだかりました。
この日は広東省の中心都市である広州を経由し、その郊外の従化市にある従化温泉まで行く計画なのですが、果たして無事にたどり着くことができるのでしょうか。


 
ホテルでチェックアウトを済ませつつ、フロントのお姉さんと筆談をしていると「この雨の中、どうやってバス停まで行くの? ホテルのスタッフに頼めば、バイクでバス停まで乗せていってくれるみたいだけど、その代わり20元かかるよ」とのことでしたので、ここは下手に強情を張らず素直に20元をスタッフに支払って、バイクに乗せてもらうことにしました。そういえば前日のおばちゃんも20元でしたので、どうやらこの金額がこの界隈の相場のようです。
外は相変わらず篠突く雨で白く煙っています。フロントで待っていると、男性スタッフが奥の方からバイクを出してきたので、タンデム用のレインコートを羽織っていざ出発。温泉ホテルから10分強で、昨日お世話になった練渓バス停に到着しました。


 

(時刻表が写っている画像はクリックで拡大)
「長途客運售票点」とは「長距離バスのチケット販売所」という意味です。バス売り場のおばちゃんは私の顔を見ると、待ってましたと言わんばかりに「天河?」(広州の天河バスターミナルで良いの?)と確認してきましたので、「そうです」と答え、この時間帯で一番早い便だった10:10の便の手配をお願いしたところ、おばちゃんは携帯電話でどこかへ連絡し、電話の向こうと簡単なやりとりが行われた後に、私に向かって首を縦に振りながらOKという表情を浮かべ、デスクに置かれた券の束に日付と行き先と記入し、それをもぎって手渡してくれました。ここから広州までの運賃は100元ですが、店内の黒板によれば、朝早い時間帯ですと70~90元で行ける便もあるようです。

広州は広東省の中心都市であり、長距離バスが発着するバスターミナルも複数あるのですが、今から私が乗る長距離バスの行先である天河バスターミナルは、当地のような広東省の東部や福建省方面へ向かう路線の拠点であると同時に、都合が良いことに従化市へ向かう路線も発着しているので、同じターミナル内での乗り換えが可能であり、乗り継ぎで広州市内をウロウロするようなことは避けられそうです。当初の計画ではここから路線バスで近隣の街に出て、そこから鉄道か高速バスに乗り換えて…というように、何度かの乗り継ぎを強いられるものと覚悟していたのですが、まさか、こんな僻地にある温泉最寄りのバス停から希望のバスターミナルまで直行できるとは予想だにしていなかったので、この棚ぼた的な乗り継ぎに巡り会えるとは、神の恵みとしか言いようがありません。前日、ポンコツのバイクタクシーで散々な目に遭い、途中から乗り継いだ路線バスで辺鄙なところで降ろされたからこそ、この便利でありがたい長距離バス乗り場を見つけることができたわけですから、「禍福は糾える縄の如し」とはよく言ったものです。中国の地で中国故事成語の素晴らしさが身に沁みました。

泥湯へバスで行ってみようとお考えの酔狂な方のため、上画像にて練渓バス乗り場に掲示されていた時刻表(2015年5月現在)を載せておきました。時刻表の最上段に記されている広州・天河バスターミナル行の本数が圧倒的に多いのですが、他にも本数こそ少ないものの、深圳市内の宝安や南頭(いずれも1日5本)といった各バスターミナルや、東莞(1日4本)など広東省内の各地へ運行されているようです。


 
バスを待つまでの間、販売所の奥にいたお爺さんがお茶を淹れてくれました。バスのチケットのみならず、店頭ではいろんなものが売られており、この日は大きな瓜やリンゴが最も目立つところに陳列されていましたので、バス車内で食べても良いように、リンゴを2つ買っておきました。
店の奥では見慣れたロゴの段ボールを発見。そこには「午後奶茶」という商品名とリラックマが描かれていました。言わずもがな、キリン「午後の紅茶」の中国版であります(パクリではなく現地生産のもの)。奶茶ということはミルクティーですね。中国ではリラックマが流行っているらしく、中国版「午後ティー」のパッケージにはリラックマが描かれているんですよ。ちなみにリラックマは中国語では「軽松小熊」と表記するんだそうです。



お茶を飲みながらのんびり過ごしていると、定刻9:10ぴったりにバスがやってきました。五華県の中心部である華城始発であり(※)、車内は既に6割近い乗車率でしたが、運良く窓側の席を確保できたので、豪雨の中でも無事に広州までたどり着けることを祈りながら薄汚いシートに腰を下ろし、「慢慢走」(気をつけてね)と言いながら路傍で手を振るおばちゃんに、窓越しに手を振り返してお別れの挨拶をしました。
(※)逆に考えれば、広州の天河バスターミナルから五華(華城)行のバスに乗って、終点手前の練渓で下車すれば、泥温泉までスムーズにたどり着けるはずです。


 
出発して間もなく一般道から離れ、五華インターから高速道路を走行します。左(上)画像はその五華インターの料金所を通過している際に撮ったものです。手前側に写っている緑色のレーンは、軍や警察関係車両用の無料通行レーンです。


 
出発してから約1時間20分後、バスはサービスエリアに入り、構内のGSに停車して給油を始めました。その間に乗客はトイレ休憩です。バスが液体を入れている間に、人間は液体を排泄するんですから、あべこべと言うか何と言うか…。


 
ここは熱水服務区という名前のサービスエリアのようです。丸い中庭を囲んで諸々の施設が並んでおり、「真功夫」など中国ではおなじみのファストフード店も見られます。でもこの時は篠突く雨が降っている最中なので、誰も軒の外に出ようとしません。約10分間のトイレ休憩の後に再出発です。


 
天候はますます悪化するばかり。時折、外が全く見えないほど猛烈な雨に見舞われ、冠水している区間を避けるために部分的に迂回をすることも。いくつものジャンクションを経てゆくうち、車窓に広州市街の街並みが見えてきました。


 
高速道路を下りて市街の一般道へ入ると、街中の大渋滞にハマってちっとも前に進んでくれません。渋滞の一因は地下鉄工事による車線封鎖であり、工事箇所の防護壁には共産党の標語でびっしりと埋め尽くされているのですが、無理矢理に前向きなスローガンが虚しく思えるほど、バスの前後では強引な車線変更が繰り返され、道路はあちこちで冠水し、イライラが募るドライバーはみんなでクラクションの嵐を巻き起こし、もう何が何だかわからないカオス状態。


 
大渋滞の中でストップアンドゴーを繰り返しながらも、少しずつ通りを進んでゆき、やがてものすごい台数のバスがとまっているターミナルへと入ってゆきました。


 
五華から約4時間で広州の天河バスターミナルに到着です。そういえば、先ほどのバス券売り場のおばちゃんは、天河まで「4個小時」(4時間)と言っていたっけ。その言葉通りの時間に到着したわけですが、ということは、街中で渋滞に巻込まれるのは毎度のことであり、この時も予測し得るいつも通りの渋滞だったということなのでしょう。
私が乗ってきた五華発以外にも、各地からやってきたバスが次々に到着しては客を吐き出してゆき、下車客はみな一斉に出口へ向かって歩いてゆきます。天秤棒を担いだおじさんがいかにも中国らしい。

豪雨のためか構内の水はけが非常に悪く、あちこちで足元が水没しており、私を含む下車客たちは、浸水していない部分をみつけて飛び石状態でピョンピョンと跳ねながら出口の方へと歩いてゆきます。中国のみならず、海外って降雨時の排水がダメな公共施設が多いように思われます。その点、日本の道路や公共施設は排水対策がしっかりしていますよね(あくまで他国との比較という意味で)。


 
さて広州・天河バスターミナルの正面玄関までまわってきました。足元に敷き詰められているタイルが滑りやすくてイライラが募ります。今度はここから従化行のバスに乗り換えます。
実はそのバスに乗るまで、一旦地下鉄で市街に出て、ちょこちょこと用事を済ませているのですが、その件についてはここでは省略させていただきます。


 
バスターミナルの館内には、習近平が唱えるスローガン「中国の夢」が壁一面に貼り尽くされていました。ここだけではなく、中国のテレビCMでも街頭の看板でも、今回の旅行中ではとにかくこの「中国の夢」をイヤというほど目にしました。あくまで私の邪推ですが、従来は企業広告のために使っていたスペースですら、このスローガンに乗っ取られているようでした。中国は以前から街じゅうにスローガンがあふれていますけど、習近平体制になってから、その傾向がより一層増しているような気がしてなりません。


 
ターミナルは重層的な構造でしたから、初めて利用する私はちょっと迷いかけたのですが、1階左側に広がるチケット窓口の電光掲示に「従化」という地名が表示されていましたので、ここで並んでいれば良いのだろうと確信して列に加わったところ、予測通りに無事従化までのチケットを入手できました。右or下画像がこの窓口で発券された従化までの乗車券です。


 
券面に表記された「1楼36検票口」(1階36番ゲート)には既に列ができていましたので、その最後尾に並んでゲートが開くのを待ちます。この列に加わりながら「ようやく中国にも列をつくって待つ文化が根付きはじめたか」と感慨深く思ったのですが、そんな感想を抱くのはまだ時期尚早でした。というのも、その乗車口の前にバスが待機しているわけではなく、ゲートからちょっと離れた斜め前まで移動しなくてはいけないため、ゲートオープンと同時にみんな列を崩して我先にと急いで、中国おなじみの競争が始まってしまいます。しかも「従化」行のバスは複数台停車しており、どの車両に乗るべきなのか判然としないため、地元の人ですらこの車両で良いのかと迷って、右往左往していました。券面には車両や座席の番号が印字されていましたが、どうせあってないようなものですから、運ちゃんに「従化(cong hua)?」と聞いて、首を縦に振ったバスに乗り込んで、空いている席へ適当に座っちゃいました。


 
券面には15:08発車と書かれていましたが、実際にターミナルを出たのは15:15頃。乗車率としては窓側が全部埋まる程度。バスは従化まで雨の高速道路をひた走るのですが、途中から渋滞にはまって、ちっとも高速じゃなくなりました。


 
渋滞のために通常より30分遅れの1時間半でようやく従化バスターミナルに到着です。KFCなどおなじみの店舗が入っている比較的大きなターミナルで、最近の中国によくありがちなガラス張りの構造です。この時、なぜか正面には特殊警察部隊(特警)の戦車が停まって市民に睨みをきかせていたのですが、下手にレンズを向けて捕まるのは嫌なので、その様子は撮っておりません。装甲車なんて生易しいものじゃありませんよ。れっきとした主砲付きの戦車でした。なにか物騒な事件でもあったのかな?


 
ターミナル内には上画像のようなチケット売り場があります。従化温泉へ行くには、ここから更に路線バスへ乗り換える必要があるのですが、近郊へアクセスする近距離路線なので、チケットを購入する必要はなく、乗り場へ直接並んじゃえばOKです。ターミナルの一角には従化温泉にある温泉ホテルの広告が見られました。


 
ターミナル右端に近郊路線乗り場があり、そのうち「4番」が温泉行です。料金は3元均一の前払いで、上述のようにチケットは不要。上画像に写っている乗り場に並んでおけばOKです。日中は15分毎に運行されています。


 
左(上)画像はバス車内の様子。ごく普通の路線バスです。ターミナルを出発したバスは、途中で従化の市街中心部を通過し、その過程で乗客もどんどん増えていって、やがて満員状態になりました。


 
五華から広州までの道中でも道路冠水に何箇所か遭遇しましたが、ここ従化でも冠水が発生しており、私が乗ったバスの道中でとりわけひどかったのは、市の共産党支部前を横切る大通りでした(上画像)。バスは走り抜けられたものの、立ち往生している車も見受けられました。共産党の建物は威圧的で見るからに頑丈そうなのですが、その目の前の道がこの有り様では、元も子もありません。中国共産党の現状を象徴しているかのような光景です。


 
従化バスターミナルから約45分乗ったあたりで、車内の案内表示に「温泉站」と表示されたので、ブザーを押してそこで下車してみたところ、そこはちょうど温泉街の中心部でした。相変わらずの土砂降りが続いており、折りたたみ傘をさしても、地面を跳ね返る雨粒で容赦なく全身が濡れてゆきます。


 
温泉街は川に沿って南北に延びており、ちょうど目の前に橋が架かっていたので、その上から川面を眺めたところ、濁流が川幅いっぱいに溢れ、奔流が温泉街に迫っており、まさに洪水寸前といった状況でした。こんな状態なのにここにいて良いのかな?
しかもこの日はまだ宿を決めていないのに…。

次回に続く

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福建・広東の旅 その7 五華熱鉱泥温泉 後編(泥湯・食事)

2015年10月16日 | 中国
前回記事の続編です。

●泥湯
 
「熱鉱泥温泉」という名称の通り、泥湯がこの温泉の名物です。園内図によれば泥湯を体験出来る施設は3つあるはずなのですが、私が宿泊した日は閑散時だったらしく、福建土楼のような円形のファサードが印象的な泥湯棟など2棟はクローズされており、この日オープンしていたのは「台湾宮」と称する木造の湯屋1棟のみでした。宿泊客は温泉プールなら無制限で利用できますが、泥湯は1泊につき2回まで利用制限があり、それ以上は別途料金を要します。ま、1泊なら2回体験すれば十分だと思いますけどね。チェックイン時に赤いチケットを2枚発券してくれるので、利用の都度、その券を泥湯棟で待機している係員のおばちゃんに手渡します。


  
あらかじめ水着に着替えた状態で泥湯棟へ向かい、中の待機室にいるおばちゃんに券を手渡しますと、おばちゃんはその奥にある泥湯浴室へ案内してくれました。外観同様に室内も総木造で、前後に泥湯浴槽が2つ据えられています。せっかくなので私はこの晩のうちに2回利用し、1回目は奥側、2回目は手前側に入りましたが、奥側が若干小さいだけで両者に大きな相違はありません。
壁にはなぜかヌード女性の絵が飾られていたのですが、どんな意味があるのかな。こんなところで男を興奮させてどうするつもり? 


 
ヌード絵の隣には泥湯に関する能書きが何枚か掲示されており、血行が良くなる、新陳代謝を促進させる、60種類のミネラルが健康に効果をもたらす云々といった温泉の効能でお馴染みの文章と並んで、人体の磁場がどうのこうの、大地の電位とリンクしているのでどうのこうのと、B級雑誌の広告で見られる怪しい健康商法みたいな文言も踊っていました。そして上画像の2枚で最もスペースを割かれていたのは、泥湯の衛生管理に関する説明。80℃以上の高温の温泉を用いているほか、紫外線装置を定期的に用いたり、毎日時間を決めて泥湯を入れ替えたりと、細かい規定を設けて衛生管理を徹底していますよ、とアピールしていました。言わずもがな中国国民のみなさんは、品質や安全などいろんな面で自国の業者を信用していませんから、そうしたお客さんに向けて不安を払拭すべく、説明の大部分を衛生管理に関する内容に充てているのでしょうけど、それなのに、磁場だの大地の電位だのと、似非科学丸出しな眉唾説明を一緒に載せちゃったら、信用面でプラスマイナスゼロになってしまうのではないかしら。尤も、そのことに気づく人がどれだけいるか、わかりませんけど。


 
上画像は2回目に入らせてもらった手前側の大きな浴槽です。浴槽にはトンボ(板レーキ)が突っ込まれていますが、これは係員が泥を攪拌して表面を均すためのもので、温泉を使った設備ゆえに上下で温度差が発生したり、泥のコンディションにムラができたりするため、お客さんが入る前にこれで入念に捏ねくりまわして、綺麗に均してくれます。また私が見ていた限りでは、私を含む入浴客が泥湯に入るたび、使用後に係員のおばちゃんが泥を排出して入れ替えており(右or下画像に写っている泥面の窪みは、泥の排出口)、後述する温泉のコックを開きながら、泥と温泉をうまい具合にかき混ぜて、泥入浴にベストなコンディションを維持していました。さすが目玉施設だけあり、ここだけは念の入れ方が違います。


 
こちらは奥側の小さな泥浴槽で、私は1回目に入りました。泥そのものが熱いのではなく、前回記事で紹介した源泉で湧出する高温の温泉と泥を混ぜることによって、入浴に適した状態を作り出しています(泥が温泉由来なのか、はたまた別の場所から運んできたものなのか、そのあたりは不明)。そうしたシステムですから、2つの浴槽とも温泉のコックがあり、近づくと火傷しそうなほど熱い湯気を上げながら、ボコボコと音を立ててお湯が吐出されていました。



奥の浴槽に入った際、おばちゃんに頼んで自分の入浴姿を撮ってもらいました。
正直に申し上げれば、入る前は「所詮中国だろ」と侮っていたのですが、実際に入ってみたら、その予測を良い意味で裏切ってくれる素晴らしい質感に、心の底から感激しちゃいました。私がいままで入ってきた泥湯の中で、最も滑らかでクリーミーであり、その極上な質感は他の泥湯とは比べ物になりません。泥湯にありがちな変な匂いや癖は無く、よく攪拌されているおかげで泥湯にありがちな塊も無く、不純物や汚らしさも皆無。粘度の強いトロットロな泥に入ると、まるで自分がフォンデュの食材になったような気分です。

浴槽自体は一般的なお風呂より若干浅めの造り。トロトロの泥が溜められていますので、入る際は滑りやすくバランスが取りにくいのですが、慎重に足を踏み入れれば大丈夫。なぜか底の方に熱いお湯が集まるらしく、仰向けに寝そべって肩まで泥に身を沈めると、お尻や背中の方からジンジンと熱さが体に伝わり、2分も経たないうちに額に汗がびっしりと浮かんで、やがて全身に熱が回ってパワフルに火照ってきます。おすすめ入浴時間は15分とのことですが、結構熱いので15分入る続けるのは辛抱を要するかも。鹿児島県指宿の砂風呂で熱に耐えるような感覚に似ているかな。でも2回の泥入浴において、私はこの15分をしっかり守って入り続けましたよ。15分になるとおばちゃんが教えてくれます。ちなみにこの泥湯担当のおばちゃんはとっても親切。常に笑顔で、いろいろと気を使ってくれました。


 
泥湯の後はシャワーを浴びて泥を落とします。シャワーといっても、シャワーヘッドからお湯が拡散されるようなものではなく、配管の口からドボドボとお湯が垂直に落ちているだけの代物ですが、このお湯からは土類感が得られたので、おそらく温泉に加水などしてから使っているものかと思われます。

浴後に驚いたのは、泥を落とした後の肌の状態!
まるで全身脱皮して皮膚が完全に生まれ変わったみたいに、超ーーーツルンツルンでスッベスベ。時間が経ってもその状態は続き、それでいてモッチモチな潤いも持続します。エステで何かの美容効果を施術をしてもらったかのような泥湯の効果は、掛け値なしで素晴らしく、男ですら自分の肌の美しさにウットリし、極上の夢見心地を楽しむことができました。
ここの泥湯はマジで凄いぞ!


●食事
 
最後にここでの食事について触れておきましょう。おそらく集落(温泉街)でも食事できる店はあるのでしょうけど、中国の田舎ですと、もし店を見つけたとしても開店休業状態だったりする場合が往々にしてありますから、下手に集落へ出てお店を探すのは非常にリスキーだと判断し、ここでは園内の食堂で2食を摂ることにしました。
食堂はレセプション棟の左隣にあり、いくつもの円卓が並べられていましたが、私以外に客が来る気配はなく、蛍光灯から響くジージーという電磁音と、そのまわりをブンブン飛び回って体当たりする虫の羽音が、頭上から虚しく聞こえてくるばかりでした。


 
 
客家の人々が多く暮らすエリアだけあって、食事は客家料理が中心であり、壁には主なメニューが写真とともに紹介されているのですが、閑散時はストックする食材を少なくするためなのか、食堂のおばちゃん曰く、選べるメニューはそのほんの一部に限られるとのこと。前回記事で紹介した筆談を駆使する受付のお姉さんが、おばちゃんと私の間に入って、そうした事情や注文できるメニューを一生懸命メモに書いて説明してくれるのですが、残念なことにメニューに関しては、意味がちんぷんかんぷん。日本のレストランでも、小洒落たお店に入ってメニューに見慣れない横文字や形容表現が並んでいたら、どんな料理が想像できず注文に難儀してしまいますが、あれと全く同じで、料理の名前は雅風にまわりくどく表現するため、漢字を読んだところでストレートに意味が伝わってこないのです。でも悩んだところで先には進めないので、おばちゃんが勧める一品と、部首に鳥の字が入っていたメニューをひとつ、そしてスープをひとつ注文したところ、目の前に出されたのが上画像の品々です。

スープは溶き卵と春菊の葉みたいなものが入っており、葉物のクセが強くて途中で断念したのですが、他2品はなかなかの美味。特におばちゃんがリコメンドした客家料理の代表選手「醸豆腐」は、提供される時点で土鍋がグツグツ音を立てて煮えており、その状況を目にするだけでも食欲がそそるのですが、豆腐はいわゆる普通の豆腐と異なる肉詰め豆腐であり、片栗粉をまぶしてから油で揚げて熱々の餡を掛けたような感じになっており、実に美味で完食してしまいました。一方、頭を含めて丸ごと一羽を皿の上に載せている鳥料理はハトのローストで、見た目のグロテスクさとは裏腹に、肉がとても柔らかくて味付けも良く、小骨が多くて食べにくい部分を除けば、こちらもしっかり食べきっちゃいました。
ただ、私一人でこの3品は量が多すぎです。しかも白米など全て含めて総額87元(1700円弱)という、中国の田舎にしてはかなり高い価格にもちょっと怯んでしまいました。あくまでみんなで楽しくワイワイ過ごすことが前提の宿であり、私のように一人旅で訪れる客なんか少ないんだろうなぁ。


 
こちらは朝食。私の大好物である焼きビーフンと醤油掛けの目玉焼き、そして白米で13元(約250円)ですから、日本の感覚では安いけれども、中国の田舎にしてはやや高いかな。とはいえ見た目は悪いけれども美味しかったので良かったのですけどね。

なおレセプションの裏手には売店があり、水着や土産物などの他、お菓子や飲料なども販売されていましたので、旅先での大きな心配事のひとつである飲料水(PETボトルの水)の確保は問題ありません。


●パンフレット
 

 
フロントに置いてあったパンフレットの両面をスキャンしましたので、ご興味のある方はご覧になってくださいませ。

ちなみに私が宿泊したログハウスは1泊約450元という、田舎の宿にしては結構なお値段であり(都市部のそこそこなクラスのホテル並み)、それでいてハウス内はボロが目につくので、温泉ホテルとしてのコストパフォーマンスはハッキリ言って悪いのですが、泥湯の浴感や効果はお世辞抜きで本当に素晴らしかったので、もし当地へ旅行する機会があれば(且つ車などで自由に動き回れる移動手段があれば)、こちらへ立ち寄って泥湯だけでも体験してみるとよろしいかと思います。


現地までのアクセスに関しては、前々回の記事もしくは次回記事の前半をご参考になさってください。
広東省梅州市五華県転水鎮維竜村
0753-4886388
ホームページ

入場料金(温泉プールや泥湯入浴)98元
水着など販売あり

私の好み:温泉は★+0.5, 泥湯は文句無しで★★★
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福建・広東の旅 その6 五華熱鉱泥温泉 前編(部屋・温泉プール・露天)

2015年10月15日 | 中国
 
前回記事で述べてきましたように、苦難の乗り継ぎを経ながら、ようやく五華熱鉱泥温泉へとたどり着きました。この付近は小さな温泉街が形成されており、他にもいくつか小さな温泉宿があるのですが、中国の安宿はいろんな意味で不安なので、ここは無難に、他宿より群を抜いて規模の大きな「五華熱湖熱鉱泥温泉山庄」を選ぶことにしました。
元々無事にたどり着けるかどうかわからなかったですし、予約の方法すらも判然としなかったので、まずはフロントへ飛び込んで泊まれるかどうか確認し、どんな部屋なのか内部を見せてもらったところ、まぁ可もなく不可もなくのごく普通な部屋でしたので、安宿で冒険するよりこちらの方が無難だろうと判断して、計画通りにここで一晩を過ごすことにしました。表向きは国際的な施設であることをアピールするためか、フロントの壁にはニューヨークやロンドンなど世界主要地の時刻を示す時計が括り付けられているのですが、そこで対応するスタッフのお姉さんはインターナショナル感が一切ゼロで、英語は全く話せません。しかしながらそれを補うだけの親切心はあり、幸いにして私が日本人(つまり漢字がわかる人種)であることがわかると、お姉さんは積極的に筆談し、彼女の手によってA4のコピー用紙にびっしりと諸々の説明文が記されたのでした。お姉さん、ありがとう!


 
駐車場には施設の存在を示す大きな看板が立っており、「泥」という文字とともに、湯泥を塗りたくって笑顔を見せる水着の男女の姿が写っていましたが、何年前のものなのかすっかり退色しちゃって、その笑顔が却って不気味に思えました。

この施設のみならず、梅州市一帯では「世界客都」という文字を頻繁に見かけるのですが、これは当地が世界中のお客さんを迎える都市だということではなく、梅州は世界中に散らばる客家の人々のホームタウンですよ、という意味です。ご存知の方も多いかと思いますが、漢民族と一口に言っても、たとえば北京など北方の系統、上海などの呉越(江浙)系、福建や台湾などの閩民系、香港や広州などの広東系などのように、地域によって系統(文化や言語など)が分かれており、北京官話(普通話)と広東語が完全に別言語であることは有名な話ですが、客家もそうした系統のひとつに分類されながら、長い歴史の中で戦乱から逃れて流転の運命を辿ってきた関係で、自分たちの文化の源流地となるべき場所が失われており、中国各地へ散らばりつつも独自の文化を守って生活しています。そんな状況下、現在客家の人々が多く集まっている地域のひとつが、この梅州一帯なのです。この他、同じ広東省では恵州も客家人口が多いですし、海峡を越えた台湾では新竹や苗栗あたりも客家の一台拠点ですね(台湾のテレビには客家専門チャンネルがあります)。いやいや、中国のみならず、客家は世界中に散らばっており、世界の華僑の3割は客家系だと言われているほど。さらには、中共の小平・朱徳・李鵬といった面々、台湾の李登輝、シンガポールのリー・クワンユー、タイのタクシン一族などといったアジアの有力政治家の他、「悲情城市」で有名な台湾の映画監督である侯孝賢、タイガーバームの生みの親である胡文虎などなど、客家系(やその血を引く家系)は世界的に著名な人物を多数輩出しており、流浪の民でありかつ有能な人材も多いという意味で「漢民族のユダヤ人」と称されることもあります。


 
話を「温泉山庄」に戻しましょう。受付棟の前には園内図が掲示されていました。大きな池を中心にして諸々の施設が散らばっており、場所を把握しないと迷ってしまうかも。
その側にはこの施設における地熱を利用した空調システムに関する解説図と説明がなされていました。図といってもかなり簡略されており、果たしてこれで納得できる人がどれだけいるか怪しいところですが、いずれにせよ、構内の主要な建物は地熱で暖房しているんだとか。尤も、私が訪れたのは夏季ですから、暖房ではなく冷房が必要だったわけですけど…。


 
上述のように、敷地内に水を湛える大きな池のまわりに、温浴用の施設や宿泊用のログハウスなどがズラリと軒を連ねており、園内の庭木も手入れされていて、構内はあたかも公園のようです。


●客室
 
宿泊用の客室は全て「ロシア風」と銘打っているログハウスであり、収容人員によってその大きさが異なっています。ちなみに、なぜかつての仇敵であるロシアの名を名乗っているのかはわかりません。
今回私にあてがわれた小屋は、赤い屋根の小さなおうちです。


 
ウッディーな室内にはダブルベッドがひとつ据えられ、エアコンやテレビなど、基本的な家電品は揃っています(冷蔵庫は無かったかも)。テレビの上にはWifiのルーターみたいなものが置かれており、てっきり室内でネットが使えるものと期待したのですが、これはテレビ用の受信機器(おそらくIP放送の類)であって、ネットは使えませんし、テレビのリモコン操作も複雑で面倒でした。
木材を多用して一見温もりが感じられる室内も、ベッドの下やタンスの下など隅々までチェックすると、ホコリが溜まっていたり木が腐ってボロボロになっていたりと、不安要素がたっぷりです。訪問時は夏季ですし、この日は終日雨が降っていましたので、虫の侵入や雨漏りが心配になり、とりあえず持参していた虫除けを噴射しまくりました(ナンキンムシ棲息の痕跡が無かったことは幸いでした)。


 
上画像は水回りの様子です。洗面台の他、トイレとシャワーが備え付けられています。便器とシャワーが接近しているため、ここでシャワーを浴びると、どうしても便器がビショビショになってしまいます。洗面台にはドライヤーが設置されていましたが、備え付けのタオルは固くゴワゴワで雑巾みたいでした。


 
カランには「冷水」と「温泉水」の混合水栓で、シャワーも同様です。つまりお湯は「温泉」なんですね。どのようなお湯であるかは後ほど。


●源泉

園内の大きな池を見渡すと、畔で白い湯気をモクモクと上げているところがあります。


 
その場所は私が宿泊したログハウスの斜め前にあり、池へ突き出た桟橋の先に、跳ね上げ屋根の小屋と直径10メートルはありそうな大きな円筒形タンクが設けられていました。桟橋の前に立っている赤い説明看板によれば、ここは天然温泉の源泉であり、炭酸ナトリウムを含む83~98℃・pH7.79の温泉が湧出していて、泥湯や温泉プールなど各温浴施設で使っているとのこと。小屋からは温泉施設でおなじみの機械音が響いていましたので、内部には揚湯ポンプがあるのでしょう。


 
大きな円筒状のタンクからは湯気が朦々と上がっており、湯面からものすごい熱気が放たれていました。安全のため周囲はハンドレールが取り付けられており、しかも触れないよう水位が低く設定されていたため、直に温度計を突っ込むことはできませんでしたが、湯気の熱さから想像するに、直に触れたら火傷必至なほどの相当の高温であることに間違いありません。タンク自体は相当深く、底面は目視できなかったのですが、思わず吸い込まれそうになるほど美しいターコイズブルーの透明なお湯が、そこにたっぷりと湛えられていたのでした。

客室の水回りに備え付けられているカランやシャワーから出てくる「温泉水」はこの源泉から引かれているはずなので、シャワーのお湯でテイスティングしてみますと、ザックリ言えば無色透明無味無臭なのですが、ほのかに土類感(というか石膏感)を帯びており、アッサリ&サッパリのクセがない浴感なのですが、ほのかな土類感が密かな実力を発揮するのか、シャワー後には弱いツルスベと引っかかりが混在した肌触りが残りました。


●温泉プール
 
 
園内には豊富に湧く温泉を利用した大きな温泉プールがあり、宿泊客は滞在中(深夜以外)自由に利用できます。湯面から湯気が上がるこのプールは、鏡餅を輪切りにしたような形状をしており、半分ほどには屋根が掛けられていて、その屋根下部分はちょっと深い造りになっていました。また子供でも遊べるよう、浅い部分にはウォータースライダーも設けられています。
お湯は無色透明でほぼ無味無臭。湯度は35℃前後なのですが、場所によって多少の上下があり、温泉を供給する配管の吐出口では50℃以上の激熱状態でした。また上述において、お湯からはほのかな石膏感があったと述べましたが、スカイブルーの塗装が目立つこのプールの中で、お湯がプールサイドのグレーチングへと溢水(排水)する切り欠け部分だけはやや茶色がかったベージュ色にはっきりと染まっており、その色合いがお湯に含まれる土類の存在を窺わせていました。
なおプールサイドには上画像のようにベッドがたくさん並ぶマッサージルームもあり、リクエストすれば施述してくれるみたいですが、こんな田舎でまともな技術が受けられるはず無いので、今回は見学だけにとどめておきました。


 
夜は11時まで利用可能。と言ってもそんな遅い時間までプールに入っていたわけではなく、この施設構内でWifiが自由に使えるのは、フロント周辺とこのプールサイドだけだったので、ベンチに腰掛けて、あたりを飛び回る蚊に刺されながら持参のパソコンを操作し、翌日の計画を練っていたのでした。たしかに蚊は鬱陶しいものの、静かでのんびりしていて、なかなか良い雰囲気でしたよ。


 

話の時間は前後しますが、私がこの温泉プールへ初めて足を踏み入れた際、プールを管理しているおじさんが頻りに「瀑布へ行きなよ」とニコニコしながら勧めてきました。温泉プールの後背では湯の滝が落ちており、その滝の方へ登れるらしいのです。そこでおじさんのオススメに従い、滝へ向かってみました。途中の通路ではアドベンチャー性を高める為か、木道の階段や洞窟状のトンネルが設けられているのですが、そういうところに限ってゴミや資材の残骸が散乱していたり、ヌルヌル不衛生で滑りやすかったり、シロアリが大量発生していたりと、目を覆わんばかりの惨状。所詮ここは中国なんだと諦めて駆け足で通路を登りきると、目の前で湯の滝が飛沫をあげており、滝壺が岩風呂になっていたのでした。


 
岩風呂の両サイドでは石材彫刻の龍と魚が、眼下の温泉プールを睥睨していました。


 
この滝壺の岩風呂は小高いところにあるため、眼下に広がるスカイブルーの温泉プールはもちろん、周辺の集落(温泉街)を一望できます。岩風呂といっても、モルタルを吹き付けて岩っぽく見せているだけですが、入り応えのある深さや41℃前後の湯加減など、露天風呂としては日本人でも気に入りそうな造りになっており、景色の良さも相俟って、つい気持ち良くなって自分撮りしてしまいました。
敢えて難癖をつけるならば、肝心のお湯の鮮度感がいまいちだったことかな。この岩風呂を楽しんだ私が下の温泉プールへ戻ってくると、管理人のおじさんはプールサイドの機械室に入り、何やら操作をし始めます。間もなくプール付近で響いていた機械音(ポンプの作動音)が止まると、湯の滝の流れも徐々に弱まって、やがて流下が完全に止まってしまいました。どうやら湯の滝も岩風呂のお湯も、ポンプで循環させていたようです。なるほど、それゆえお湯から鮮度感が得られ無かったわけですが、でもこういう環境でお湯を循環させちゃうと、レジオネラ属菌が増殖しやすくなるはず。というわけで、お子さんやお年寄りはこの湯の滝に近づかない方がよろしいかと思います。私の体には何らの異状も発症していませんけど…。


●露天浴槽

温泉プールから奥へ行くと、円形の浴槽がいくつか並んでいるゾーンがありました。日本的に表現すれば、露天風呂ゾーンと言った感じです。


 
それぞれ形状が多少異なるものの、いずれも3~4人は入れそうなキャパがあり、42~43℃というちょうど良い湯加減のお湯が張られています。


 
各槽ともお湯は底面の穴から供給されており(投入口では45℃近い熱さ)、槽内の吸込口より排出されています。おじさんが湯の滝のポンプを止めた後でも、こちらではお湯の供給が止まりませんでしたから、お湯の供給に関しては別系統になっているようであり、実際にお湯の鮮度感もなかなか良好でした。実際に浴槽の温度とpHを計測したところ、42.5℃でpH8.3でした。



お湯のコンディションや温度が良く、浴槽としての造り(深さなど)もまずまずの出来。屋外にある温泉施設ではこの小さな露天風呂群が最も気に入りました。


次回につづく

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