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温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

登山初心者の登山記 2011年初秋 白馬岳 その2「栂池ヒュッテ→白馬大池→小蓮華山→白馬岳」

2011年09月11日 | 長野県
白馬岳登山記その1(前夜)のつづきです


2011年9月7日 快晴 単独行
栂池ヒュッテ→天狗平→白馬乗鞍岳→白馬大池→小蓮華山→三国境→白馬岳山頂→白馬山荘
距離:9.2km
標高差:1081m
獲得標高:上り1233m、下り222m
服装:速乾性下着(Tシャツ)、化繊の半袖、化繊の長袖、綿の長袖シャツ、フリース、レインコート兼ジャンパー、以上をレイヤーとして重ね着しながら、体温や気温に応じて脱ぎ着しました。
装備:念のため小アイゼン・非常食を用意。ライトや熊よけ鈴は携帯して当然。水は1Lも用意すれば十分。



【5:30 栂池ヒュッテ 起床】
残暑厳しい9月初旬だというのに、標高1860mの当地は日が暮れると急激に冷え込み、起床した時点での気温は7.5℃しかありませんでした。麓を見下ろすと、下界はすっかり雲海の下に隠れてしまっています。


【7:00 朝食】
栂池ヒュッテから白馬岳山頂まで標準タイムは約7時間。一方、当宿の朝食開始時間は7:00。のんきに朝食を摂ってから出発すると、白馬岳山頂に着くのは15:00頃になってしまう計算になります。山は天候が変わりやすく、特に午後は悪転する可能性が高いので、登山客によっては朝食をここでとらず、弁当にしてもらって、早々に出発するそうですが、朝から握り飯はイヤだなぁと思ってしまった私は、リスクを承知の上で、ここでしっかり朝ごはんを食べてから出発することにしました。

 
席は夕食のときと同じ場所。山には雲ひとつかかっていない絶好の日和です。これからあの山へ登るのか、そう思うと武者震いしてしまいます。ご飯を全て残さず平らげ、葉を歯を磨いて、いざ出発だ。

 
【7:20 栂池ヒュッテ 出発(1860m)】
空の青と山の緑のコントラストがあまりに鮮明すぎるほど、この上ない快晴です。
村営栂池山荘とビジターセンターの間にある登山口から登攀をスタートしました。

 
ネマガリダケの繁る泥道や、樹林帯の中のジグザグ坂をひたすら登ります。道はよく整備されているので、歩きやすく、危険箇所もありません。ウィーミングアップにはもってこい。上空ではヘリコプターが頻繁に飛び交っています。ここ数日は台風の影響で山小屋へ物資運搬できない日々が続いていましたから、待ってましたと言わんばかりに一斉にヘリ輸送が行われているのでしょう。

 
【7:53 銀嶺水】
地名からもわかるように、この付近には水場があります。小さなベンチが設けられていますが、まだ休憩するには早いので、ここはパス。樹林帯の間からは、麓はおろか南アルプスまではっきり展望できました。

 
左手にはこれから挑む連峰が山裾まではっきりと姿を現わしています。しばらく登ってゆくうちに勾配が緩やかになり…

 
【8:13 天狗平(2180m)】
木道が現れて平坦になると、まもなく高層湿原の天狗平に辿り着きました。清々しい風が吹き抜けています。池塘が点在していますが、水を失ってただの泥田と化しているところも多く、また花のシーズンでも紅葉シーズンでもない中途半端な時季なので、見るべきものも少なく、はたまた休憩するほど疲れてもいないので、ここも通過しちゃいました。


【8:20 風吹大池への分岐】
ここを右手に折れると風吹大池ですが、もちろん今回は左手へ進みます。平坦なのはここまで。

 
木道が終わると、岩場が続くようになります。はじめのうちは海岸のテトラポットの上を飛び渡るように、岩の上をヒョイヒョイと飛んでいけばよいのですが、やがて勾配が急になり、岩をよじ登らなければならない状態になりました。岩にペイントされた赤い丸を目印にして、先へと登ってゆきます。


【8:50 小さな雪田】
9月にもなれば多くの雪渓は消えてしまいますが、今回のルートで唯一雪上を歩いたのがここでした。とはいえ、長さはせいぜい20~30m程度。トラロープが張ってありますし、大した勾配ではないので、アイゼンは不要。そのまま歩いちゃいました。この雪田の後も急な岩場が続きます。

 
【9:05/10 白馬乗鞍岳(2436.7m)】
やがて勾配が緩やかになり、這松林の平坦な道を進んでゆくと、四角錐のモニュメントが立てられている白馬乗鞍岳山頂に到達です。ここで5分休憩。今から登る小蓮華山が正面にそびえ、なだらかな山裾を広げています。

 
ここからは一転して緩やかな下りが続き、白馬大池の池畔へと向かいます。この下りも岩の上をピョンピョン飛んでゆくような、ちょっと面倒な感じでした。しかも黒いアブみたいな羽虫が大量発生していて、こいつらがかなり鬱陶しい。でも青い空を映した大池とその畔に赤い小屋が佇んでいる光景は、まるで美しい風景画を見ているようでした。

 
【9:33 白馬大池山荘(2380m)】
池の畔をぐるっと回って大池山荘に到着。小屋周辺のテント場では、まだ何基かテントが張られていましたが、山荘前から小蓮華へ進む道を見上げると、むしろ山の上から降りてくる登山者の方が多いようでした。行き違う人曰く「上は風が強くて寒いよ」とのこと。気を引き締め、小蓮華へと向かいます。

 
雷鳥坂と呼ばれる尾根の緩やかな坂を上がります。途中で振り返ると、大池や山荘はもちろんのこと、その彼方には日本海の海岸がはっきりと見えました。


進行方向には小蓮華、そしてそこから雪倉岳へと至る稜線が連なっています。綺麗だなぁ、なんて呟きながら歩いていると…


路傍の這松林の中にライチョウを発見!! しばらくその場で観察していたら…


なんと4羽も同時に登山道上へ出没してくれました。大きさから察するに1羽が親で他は幼鳥かと思われます。しばしば「ライチョウは(外敵に狙われにくい)ガスっている時に遭遇しやすい」と聞きますが、まさかこの日のような快晴という条件にもかかわらず、ひょこひょこと姿を現してくれるとは!! 感激して必死にカメラを握りしめ、何枚も撮影しちゃいました。さすが雷鳥坂と称する坂だけあって、本当に棲息しているんですね。

 
ライチョウたちが這松の中に姿を消したところで、登山再開。尾根の上の緩やかな勾配を上がってゆきます。見晴らしがよく天気も良好、とても爽快です。鞍部の眺望がきくところでは、麓の白馬村一帯や、その向こうの青木湖がはっきり見えます。

 
やや風が強く、雲の流れも速かったのですが、そのおかげで、雲に隠れていた白馬岳の山頂が、雲の切れ間から時折姿を見せてくれました。
また南の方角には八ヶ岳、そしてその奥に富士山の姿がはっきりと確認することができました。ひとつの場所から日本海の海岸と富士山が同時に見られるだなんて、ちょっと信じられません。日本って狭いんだなぁ。

 
【11:00/25 小蓮華山(2766m)・昼食休憩】
爽快な尾根の上を軽快に歩いているうちに、あっけなく小蓮華山の頂上に着いてしまいました。
頂上部分は陥没箇所があるらしく立ち入り禁止になっていますが、その手前にはこの山頂のシンボルとでも言うべき鉄の剱が突き刺さっていました。徐々に北西の冷たい風が強くなり始めたので、山頂から若干引き返して、風を避けられる場所で腰をおろし、お昼ご飯をとることに。山の上で食べる握り飯って美味いですね。

 
25分間のランチ休憩を終えて歩行再開。雲の勢いが徐々に弱まり、この頃には登山道の先に聳える白馬岳山頂がはっきりと目に入ってきました。右手(西)には雪倉岳に連なる稜線が一部雲に隠れながらも姿を見せています。


途中で振り返って小蓮華を撮ってみました。山裾の広がり方袴のようになだらかで美麗ですね。
標高が高いと空の青さが下界と全く違い、飛行機の窓から外を眺めている時と同じように、サファイアのような濃い青色の空が果てしなく広がっています。

 
【12:00 三国境(2751m)】
長野(信州)・新潟(越後)・富山(越中)の3県(国)が境を接する三国境。


さぁ山頂までもう少し。

 
【12:40/13:50 白馬岳山頂(2932.2m)】
栂池ヒュッテから休憩を含め5時間20分で到達してしまいました。標準タイムは7時間ですから、2時間近くも短縮してしまったことになります。ちょっと早すぎたかしら。もう少し途中でのんびりすればよかったかしら。登頂記念として、一等三角点にしっかりタッチ。

 
気温は9.5℃。北西から強い風が吹き付け、山頂へ登りつめたみなさんはウインドブレーカーやダウンを羽織りながら口々に「寒い寒い」と身を縮めていましたが、耐寒仕様の私の体はむしろ塩梅がよく、長袖シャツで十分でした。近くにいた方にお願いして記念撮影。
予定より早く着きすぎたので、山頂では大の字になって寝そべって、のんびり昼寝しちゃいました。風は確かに冷たいのですが、ガレの石は直射日光で温められているので地面はポカポカしており、寝そべるとまるで岩盤浴のように気持ちいいんです。頭を空っぽにして、しばし夢心地の時間を過ごしました。
(※でも、これが後々悲劇をもたらしました。というのも高所は下界よりも紫外線が強く、しかもこの日は快晴だったため、露出していた皮膚が思いっきり日焼けしてしまい、特に顔面は酷い皮膚炎になってしまいました。こういう凡ミスをやらかすところが、いかにもド素人ですね)

 
快晴の山頂からは360度の大パノラマが得られました。まず画像左(上)は北西方向。重畳する稜線の彼方には日本海に面する黒部川扇状地(黒部や入善の市街)が広がっています。
画像右(下)は北東方向、この日登ってきた稜線やその麓の栂池方面が一望できます。画像では分かりにくいのですが、出発点である栂池ヒュッテが豆粒のように小さく写っています。

 
画像左(上)は白馬村の中心部、その奥に青木湖が写っています。いわゆるフォッサマグナのうちの、糸魚川静岡構造線ですね。また手前側には大雪渓も写っています。
画像右(下)は白馬山荘の向こうに杓子岳・白馬鑓ヶ岳、そして奥の方には立山連峰が連なっています。立山連峰は頂上部が雲に覆われてしまっていますね。この画像ではわかりにくいのですが、白馬三山と立山連峰の間には黒四ダム(黒部湖)、その奥に槍ヶ岳が肉眼ではっきりと確認できました。


山頂からちょっと下ったところに立てられている「松沢貞逸顕彰碑」を見ながら・・・

 
【14:00 白馬山荘】
本日のゴールである白馬山荘に到着です。山小屋としては日本最大の収容人数を誇るんだとか。山小屋と言うより要塞と表現したくなるような建物です。


厳密に言うとこの付近の県境は未確定らしいのですが、一応受付がある1号館は長野県、2号館と3号館は富山県に属しているんだそうです。受付を済ませて指定された部屋へ向かうと、そこには既に2人の先客がいらっしゃいました。その後、1人が追加で入室してきたので、私の部屋では計4人が寝泊まりしました。混雑時にはギュウギュウに詰め込まれるらしいのですが、4人なら室内空間には十分余裕があり、神経質な私も問題ありませんでした。


同室した愛知県のSさんと一緒に、レストラン棟「スカイプラザ白馬」にて生ビールで乾杯しました。
山で飲むビールって本当に美味い! 値段は下界の倍の900円ですが、それだけのお金を支払う価値は十分にあります。そもそも、こんな高い山のてっぺんでジョッキに注がれた生ビールを飲めること自体、奇跡みたいなもんです。文明の進歩に感謝感激雨霰。


夕食は17:00に一斉スタート。トンカツがメインですが、山荘の利用客の多くを占める中高年の胃袋は揚げ物を目にすると拒否反応を示すらしく、私は隣に座ったおばちゃんから「アタシ無理なのよ、お願いだから食べて頂戴」と依願され、カツを2切れも余計に食うはめになりました。私も揚げ物はそんなに好きではなかったのですが…。


夕食後に外へ出ると、黄昏時を迎えた上空の雲は夕焼けを映して茜色に染まり、周囲の山々を覆っていた低い雲は完全に消えていました。先ほどまでは山頂が隠れていた立山連峰も、雄山・剣岳をはじめとして毛勝山まではっきりと姿を現し、白馬鑓の右方には槍ヶ岳など穂高方面の山々も明瞭に望めました。

 
杓子岳の左側には南アルプス、さらに左には八ヶ岳が聳え、その奥には富士山がはっきり見えます。私の安物のデジカメですらちゃんと写せるのですから、どれだけ視界が良好だったか、容易にご理解いただけるかと思います。でもこの時はめちゃくちゃ寒かったんですよ。気温は5℃ですが、北風が非常に強く、体感温度としては氷点下ではなかったかと思います。ダウンジャケットを着ても寒いと嘆く人もたくさんいらっしゃいました。下界は熱帯夜で唸っているというのに、同じ日本でこうも違うとは…。

その3へつづく
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登山初心者の登山記 2011年初秋 白馬岳 その1「前夜(栂池ヒュッテ)」

2011年09月11日 | 長野県
前回記事では白馬鑓温泉を取り上げましたが、当地を訪れるにあたり、単純に麓と温泉を往復するのは芸が無さすぎる、せっかくなら白馬岳の山頂へ登攀してみよう、と考えました。白馬岳への登山ルートにはいくつかあり、たとえば…
(1)猿倉→白馬尻→大雪渓→白馬岳(大雪渓ルート)
(2)猿倉→白馬鑓温泉→白馬鑓ヶ岳→白馬岳
(3)栂池→白馬大池→小蓮華岳→白馬岳
(4)蓮華温泉→白馬大池→以下(3)と同一
(5)欅平→祖母谷温泉→白馬岳
(6)唐松岳方面→不帰キレット→白馬鑓ヶ岳→白馬岳
などが挙げられますが、私のような経験が浅く体力や技術のない素人にとって、(5)と(6)はまず対象外。次に(4)を検討しますが、蓮華温泉までは自家用車でのアクセスが必要になり(路線バスは運行日が限定されている)、しかも駐車したところまで戻らなきゃいけないので縦走には不適当。(1)は最もポピュラーですが、雪渓を登るのは面倒だし、標高差が約1600mもあるので疲れそう。(2)も同様に標高差が1600m以上あり、しかも距離もあるので健脚向き。となると、消去法的に(3)が残りました。(3)の栂池から出発するルートはゴンドラやロープウェイといった文明の利器を利用することによって思いっきり高さを稼げ、標高差1000m強で白馬岳山頂へと到達できるのです。軟弱者の私は、登りにこの(3)を選択し、下山ルートとして(2)を逆走することにより、最も楽に白馬三山を縦走し、かつ鑓温泉にも入ることができました。

今回はまず登攀の前夜、栂池ヒュッテまでのアクセスなどについて書き綴ってみます。白馬岳前後の山を縦走し、スタートとゴールが異なる地点となるため、自分の車ではなく列車とバスを利用しました。



JR大糸線・南小谷駅で列車を降ります。

 
南小谷駅から小谷村営バスで栂池高原へ。所要約20分で、運賃は500円。乗客は私一人だけでした。

 
温泉浴場「栂の湯」の脇からゴンドラ乗り場へ。途中には軽食のカウンターや足湯が設けられていました。周辺施設は最近改修されたらしく、どこもかしこも新しくて綺麗です。


登山届を記入して投函します。用紙は現地に用意されていますが、白馬村のウェブサイトからPDFで入手することもできます。

 
まずはゴンドラ「イブ」で栂の森駅へ。


一気に標高差744mを稼ぎます。しかも所要時間わずか20分。文明って素晴らしいですね。坂口安吾の『堕落論』には、人間は楽をし手抜きをしようとするからこそ、そこにイノベーションが生まれる、だから堕落することは決して悪いことじゃない、という旨が書かれていましたが、まさに仰る通りです。


ゴンドラの次はロープウェイに乗り換えて、更に上を目指します。このロープウェイは20分間隔の運行で最終便が16:40頃(時期によって前後)とかなり早めに終わってしまうので、利用する際には要注意です。
大きな躯体のロープウェイには乗客私一人だけ。乗務員の方とマンツーマンでお話しちゃいました。今年の夏は意外にも例年以上の人出があったそうです。


ロープウェイを降りて舗装路を歩くと、今晩宿泊する「栂池ヒュッテ」が見えてきました。

 
最近建て替えられたらしく、山小屋とは思えない、とっても綺麗で温もりのある明るい建物です。電気や水道が完備されており、下界のように不自由なく滞在できました。

 
閑散期らしく、私のような一人客ですら個室が利用できました。7畳半ほどの和室です。山小屋なのに室内には地デジテレビが用意され、しかもコンセントが4口もありました。暖房も設置されています。窓の外はバルコニーとなっており、小蓮華や白馬岳が一望できます(撮影時には雲がかかっていたため、山腹しか見えませんでしたが)。
これだけ便利で快適なのに、一応山小屋としてのスタンスを貫きたいのか、トイレや洗面などの水回りは共用です。地階にはお風呂があり、混合栓カランが4基設置された洗い場、そして長方形で3人サイズの浴槽が利用できます(お湯は温泉ではなく沸かし湯の循環です)。洗濯機まで使えるのが嬉しいところです。


お食事は館内のレストラン「チングルマ」でいただきます。夕食は17:30だったか18:00だったか、とにかく山小屋的な早い時間のスタートです。入口には献立が書かれたボードがイーゼルに載せられていました。

 
白馬の山々を眺められる絶好の席へ案内されました。この日の夕食は、鰹のたたき・牛肉バーベキュー風・オクラのサラダ・山菜の煮物・とろろそば・みょうが醤油漬、そして食後はストロベリーフローズンケーキ。とても登山の前線基地とは思えないお上品なコース料理でした。


日暮れ頃になると、山に掛かっていた雲が全て消え、小蓮華や白馬岳の稜線を鮮明に望むことができました。明日もこの調子で晴れてくれるといいんだけどなぁ・・・。


その2(栂池ヒュッテ→白馬大池→小蓮華山→白馬岳)へつづく

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白馬鑓温泉

2011年09月11日 | 長野県

登山道を4~5時間歩かないと到達できない標高2100mの秘湯「白馬鑓温泉」に行ってきました。私は登山口の猿倉から行かず、別の登山口から遠回りして白馬岳など白馬三山を縦走してからこの温泉へと向かいましたが、その縦走に関してはまた別記をご参照いただくこととして、今回は温泉に限定して記述してみます。



 
こちらでは立ち寄り入浴もできますが、朝焼けを眺めながらゆっくり湯浴みしたかったので、宿泊することにしました。上画像は受付&食堂棟です。受付前には…
・沢が増水した時は、渡れない事もあります。
・橋が流された時は、水位が下がるまで修理が不可能です。
・自然には勝てません、あせらないで下さい
と登山者に向けての忠告が箇条書きされた看板が掲示されていました。そういう表現を要するほどの道を辿らないとここには到達できないのでありまして、実際に2010年9月には大雨によって沢に掛けられた簡素な橋が流されてしまい、しばらくの間登山道がクローズされてしまいました。もしそうなったら、橋がかかるまで数日ここで淹留するか、あるいは山を登って白馬山頂や大雪渓を大きく迂回しなければならないんでしょう。

 
こちらは宿泊棟。通路を挟んで二段式の寝台空間が向かい合っています。男女共用の相部屋ですしカーテンもありませんから、プライバシーが確保された空間じゃないと寝られないという人は無理ですね。布団は用意されているものの、枕がありませんでした。まぁ山小屋ですから贅沢は言っていられません。なおこの場所は冬季に雪崩が発生する可能性があるため、9月末の営業期間を終えると、建物はすべて解体されてしまうんだそうです。つまり毎年組み立てと解体を繰り返しているわけです。関係者のご苦労には頭が下がります。


ヘリや歩荷さんによって物資の運搬が行われているため、食事はご覧のように立派で温かいものをいただけます。この日の夕食の献立は、サバの味噌煮、鶏のから揚げ、スパゲッティのマヨネーズ和え、きんぴらごぼう、オレンジ、フルーツポンチでした。ご飯とお味噌汁はお替り自由ですので、大食漢にはありがたいかぎりです。ちなみに夕食は17:30、朝食は5:30開始でした(日によって異なるかと思いますので、訪問なさる場合はその都度ご確認ください)


さぁ、お風呂に行きましょう。お風呂は混浴の露天風呂と、女性専用の内湯が、それぞれ一つずつあります。

 
言葉を失うほどの素晴らしい展望! 谷を挟んで相対峙する戸隠・雨飾・妙高の山々、さらにはその奥の彼方に幾重にも稜線が重畳しています。大絶景とはこのことを言うのでしょう。こんな大パノラマを眺めながら温泉に浸かれるだなんて、本当に幸せ…。
この露天風呂は真下の登山道やテント場から丸見えなので、女性には利用しにくいかもしれませんが、水着を着用して入浴している女性もいらっしゃいましたから、そのような工夫によって臆することなく老若男女皆さんでこの絶景の露天風呂を楽しんでいただきたいものです。なお19:00~20:00は女性専用タイムです(その間は内湯が男湯になります)。


入口の反対側から撮影してみました。ちゃんと脱衣小屋もあります。いかに急な傾斜地に設けられているかがおわかりいただけるかと思います。コンクリを固めたり石を組んだりして造られた浴槽は15人近くは同時に入れそうなほど大きなものです。場所が場所だけにカランなんてありませんが、酒枡を大きくしたような木の四角い桶がありますから、これで掛け湯して入ります。排水処理設備はありませんから、石鹸などは使用不可。

 
浴槽内の山側の底に湯口のパイプが顔を出しており、ふんだんに源泉が供給されています。もちろんお湯は完全掛け流し。まるで滝のように浴槽からお湯が大量に排出されていき、その流れは湯の川となって湯気を上げながら下方へと落ちていきます。
お湯は微かに白い靄がかかったように見えますが、若干青みがかった透明です。湯船に人が入ると白い湯の花がたくさん舞い上がりますが、誰も入らないままでしばらく放っておくと、沈殿は底に沈み、あるいは流れてしまい、かなり綺麗に澄みきります。卵黄味と砂消しゴム的な味を足して2で割ったような硫黄味にほろ苦さが加わり、石膏的な甘さや微かな炭酸味も帯びています。そして軟式テニスボール的な匂いを帯びた硫化水素臭がはっきり漂っています。湯温は若干熱めで、私の温度計は43.5℃を指していました。キシキシとした浴感でした。


(サムネイルをクリックすると拡大)
興味深いのは温泉の成分です。脱衣小屋にはちゃんと分析表が掲示されているのですが、そこに記されていた泉質名は「含硫黄-マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩泉(硫化水素型)」でした。旧泉質名で表記すると「含重炭酸土類硫黄泉」となりましょうか。硫黄・マグネシウム・カルシウム・炭酸水素塩(重炭酸塩)、ひとつひとつの要素自体はちっとも珍しくありません。しかし、重炭酸土類泉は一般的にカルシウムが陽イオンのメイン(一番多いイオン)になることが多いので、マグネシウムが陽イオンの筆頭に挙がり、しかも硫黄泉としての性質も兼ね備えているだなんて、他では滅多にお目にかかれない泉質ではないでしょうか。

 
その稀有なお湯を湧出しているのがこの場所。食堂棟の裏手に屹立している岩の隙間からお湯がドバドバと大量に自噴していました。温泉ファンとしては興奮せずにはいられない光景です。


絶景を背にして、冷えた缶ビールで喉を鳴らしながら温泉に浸かる私。ありがたいことにキンキンに冷えた缶ビールが売っているのであります。350ml缶で600円もしますが、この山奥へ運搬する困難さや高コストを考えたら、十分納得できますし、それだけのお金を支払うだけの対価、つまり格別な美味しさがあるんです。山で飲むビールって、なんであんなに美味いんでしょう。あの美味さは下界じゃ決して味わえません。


なお露天風呂の真下には足湯も設けられています。こちらは無料。テント場でキャンプしている登山者が頻りに利用していました。上述の自噴源泉から専用のホースによってここまで引湯されています。露天風呂よりも足湯の方が白い沈殿が多いような気がします。

 
早朝に起きて露天風呂へ行ってみると、東の空が徐々に茜色へ染まり、しばらくするうちに山の向こうから真っ赤に燃える太陽が上がってきました。壮大な絶景から上がってくるご来光を仰ぎながら湯あみできる露天風呂なんて、温泉大国の日本とはいえ、極めて希有な存在ではないでしょうか。苦労して登山してきた甲斐がありました。

念願かなってようやく入浴・宿泊することができた白馬鑓温泉は、私の想像や期待をはるかに凌駕する、まるで天国にいるかのような極上の温泉でした。


含硫黄-マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩泉(硫化水素型) 
42.7℃ pH6.5 自然自噴 溶存物質1397mg/kg 成分総計1687mg/kg
Na:25.4mg(6.38mval%), Mg:125.5mg(59.88mval%), Ca:109.9mg(31.77mval%), HS:1.1mg(0.18mval%), SO4:135.0mg(16.42mval%), HCO3:749.7mg(71.83mval%), 遊離CO2:286.5mg, 遊離H2S:4.0mg

猿倉登山口から白馬鑓温泉登山道(小日向コル経由)を徒歩4~5時間。ちゃんとした登山装備が必須。
猿倉までは白馬駅からタクシーまたは路線バス(猿倉線)を利用(運転日注意、ハイシーズンや週末以外は運休)

長野県北安曇郡白馬村北城字白馬山国有林  地図
連絡先:(株)白馬館 0261-72-2002
ホームページ

営業期間:7月中旬~9月末
立ち寄り入浴:300円
1泊2食:9000円
テント場料金:500円
石鹸など使用不可、ロッカー・ドライヤーなど無し
夜間は冷えるので防寒具必須。山小屋なので設備面は期待しないように。自家発電ですが21時に消灯なのでヘッドランプなど用意するとよい。

私の好み:★★★
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