2018年春の某日、私用で東北へ向かった私は、その日の晩を飯坂温泉で過ごすことにしました。まずは飯坂電車の新しい顔「1000系」(東急のお下がりを改造した車両)に乗車して、終点の飯坂温泉駅へ。
駅からその日の宿へ直接向かっても良かったのですが、つい寄り道癖の虫が疼いてしまったので、チェックインする前に別の宿へ立ち寄って、日帰り入浴を楽しむことにしました。
その晩に立ち寄ったのは、駅から比較的近い場所にある「松島屋旅館」です。駅前の橋を渡ってすぐ左折した先にあり、摺上川左岸の川岸に位置しています。駅前の橋の上から上流に向かって川を眺めると、両岸に少々古い鉄筋コンクリート造りの旅館が、まるでカミソリ堤防のように屹立して切り立った渓谷のような独特な景観を生み出していますが、右側に建ち並ぶ建物で、橋から数えて3つ目がこちらのお宿です。
私が当地に到着したのは、夜の帳が下りた頃。既にその日の日帰り入浴営業を終えているお宿が多かったのですが、こちらはちょっと遅い時間でも快く受け付けてくださいました。その代り、入浴のみの利用にもかかわらず宿帳への記入を求められるのが不思議なところ。何か特別な事情でもあるのでしょうか。フロントの方の説明を聞きながら、指示に従って素直に記帳し、エレベータでお風呂のある1階へ下ります。ん? 1階へ下りる? 川岸の切り立った地形に建つこちらのお宿は地形に即した構造になっており、浴場は川面に近い1階に設けられているのに対し、玄関は川岸の高い位置に敷かれた道路に面するため4階に設けられているのです。お宿の玄関が4階にあるという点もまた不思議です。
お宿の不思議な事柄に興味を抱きながらエレベータを下りると、まず左前方に貸切風呂の暖簾が目に入ってくるのですが、今回は利用しませんのでパス。エレベータを下りて右手に進むと、前方に大浴場を示す白い暖簾がさがっていました。
浴場の出入口前には畳が敷かれ、小さな休憩スペースが用意されていました。湯上がり後、一息つきたいときに便利ですね。それでは紺の暖簾を潜ってお風呂へお邪魔しましょう。
更衣室は古いながらも、コストを抑えつつ修繕して使い勝手を改善したような感じになっていて、明るく綺麗な室内は、まずまずの使い勝手でした。室内の壁には「当館は100%源泉」と書かれており、お湯の良さをアピールしていると同時に、熱ければホースの水を加えてほしい旨も記載されていました。飯坂のお湯はとっても熱いですから、源泉そのままでは入れないこともあるのでしょう。
訪問日は冷え込んでいたため、浴室内が湯気で曇っていました。見にくい画像で申し訳ございません。お風呂は男女別の内湯が一室。窓ガラスの向こう側では、すぐ下を摺上川が流れています。窓を開けると、滔々とした川の流れが目の前に現れるのですが、対岸の道路や宿、共同浴場「波来湯」などからこちらが丸見えになってしまいますから、窓は全開にしない方が良いでしょう。尤も、窓は曇りガラスになっているため、外から中が見えてしまうようなことはありませんが、お風呂から外の景色を眺めることもできませんので、あしからず。
温泉由来の石膏臭が漂う浴室内。床には大理石のような石材が採用され、見た目がちょっと豪華です(でもちょっと滑りやすいかな)。室内には浴槽が2つ設けられています。詳しくは後程。
洗い場は2手に分かれており、計5基のシャワー付きカランが設置されています。
2つある浴槽のうち、窓から離れた奥に据えられている四角い浴槽は、目測で1m×2.5mの3人サイズ。投入量をやや絞っているように見え、その影響か、入りやすい湯加減に調整されていました。
一方、窓に近い真ん丸い浴槽は、直径約2.5mで、中央に立つ塔の上に大きな球体の石が載り、その頂点から熱いお湯が落とされていました。フロントでお風呂の説明を受けている時に「丸い方のお風呂は熱いですよ」と案内して下さったのですが、たしかに四角い浴槽より若干熱く、私の体感で43℃前後だったように記憶しています。とはいえ、普段はもっと熱いらしく、後から入ってきた連泊中のお客さん曰く「昨日はかなり熱かった」とのことですから、私の利用時は前に入ったお客さんが水で薄めてしまった後だったのかもしれません。とはいえ、なかなか良い湯でしたよ。お湯自体もしっかりかけ流されています。浴槽内に敷かれた十和田石の感触も良好でした。
飯坂温泉では、多くの施設で集中管理している混合源泉を引いていますが、こちらのお宿に引かれているのは若竹分湯槽のお湯なんだそうです。見た目は無色透明、お湯からは石膏の味と匂い、そして弱い芒硝感が伝わり、湯船に浸かるとサラっとした軽やかな感触の中に硫酸塩泉らしい引っかかりが混じる奥深い浴感が得られます。そしてお湯が肌の皺一本一本に染み込み、しっとりと馴染んでくれます。お風呂上がりは、お肌モチモチ、全身ポカポカ。幸せな気分になれました。
飯坂のお湯をしっかり掛け流しで楽しめる、なかなか良いお風呂でした。
若竹分湯槽
アルカリ性単純温泉 60.2℃ pH8.7 湧出量記載なし(動力揚湯) 溶存物質0.7894g/kg 成分総計0.7894g/kg
Na+:198.6mg(84.05mval%), Ca++:30.1mg(14.59mval%),
Cl-:93.8mg(25.00mval%), OH-:0.1mg, SO4--:321.1mg(63.11mval%), HCO3-:55.0mg(8.49mval%), CO3--:3.0mg,
H2SiO3:74.8mg,
(平成23年12月9日)
加水加温循環消毒なし
福島交通飯坂線・飯坂温泉駅より徒歩3分(約200m)
福島県福島市飯坂町湯野字切湯ノ上14番地 地図
024-542-3155
ホームページ
日帰り入浴14:00~20:30
600円
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品帳場預かり
私の好み:★★+0.5