(2020年3月訪問)
前回に引き続き熱海の温泉を訪ねます。今回取り上げるのは、有名日帰り入浴施設「日航亭 大湯」です。ネットが普及する以前から各種ガイドブックで取り上げられてきた有名施設ですので、温泉ファンのみならず熱海を訪れた多くの方が利用しているかと思います。てっきり私は自分のブログで既に取り上げていたものと勘違いしていたのですが、よく調べてみたら未掲載だったので、改めて再訪問してみることにしました。
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熱海を代表する観光名所であり、熱海七湯のひとつでもあつ大湯。かつては自然現象として熱湯の間歇泉が噴き上がっていましたが、昭和30年代に枯れてしまったため、今では観光振興を目的として人工的に噴き上げています。人工的だとわかっているものの、でも目の前でお湯が轟音と飛沫を上げながら噴き上がっていると、つい嬉しくなって写真を撮ってしまいますね。4分毎に3分間噴湯しますので、どなたも大して待つことなく噴泉を見ることができるでしょう。
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この大湯間歇泉からちょっと坂を上がったところが今回の目的地「日航亭」です。古風ながらも立派な建物からは旅館の風格が感じられますが、それもそのはず、以前は老舗旅館として営業していました。私の朧気な記憶で恐縮なのですが、今から約30年前でしょうか、バブルが弾けて日本経済が失われた20年や30年と呼ばれる不況に突入する頃、当時の熱海温泉は既に斜陽期を迎えており、従来型の旅館業を営むのが苦しくなっていました。ちょうどその頃、テレビのニュースでこの「日航亭」が取り上げられ、旅館業を止めて日帰り入浴専門施設として業態転換を図ったことが注目されたのです。いまでこそ旅館から入浴施設へリニューアルを図る施設が全国各地でみられるようになりましたが、「日航亭」はこうした業態転換の嚆矢と言えるかと思います。このような動きは当時としては非常に珍しく、衰退する温泉業界の中で生き残りを図る奇策として大きなニュースバリューがあったのでしょう。老舗旅館の暖簾を下して銭湯のようなお店に変貌するのですから、当時は相当の決断を迫られたのかと思いますが、熱海温泉界がドン底から這い上がって現在のような再発展に至っても、お客さんが絶えることは無いのですから、その当時の決断は間違っていなかったわけです。
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徳川家康に気に入られた江戸時代の熱海は天領であり、3代家光以降の将軍たちは大湯のお湯を「御汲湯」として江戸城まで運ばせました。外壁にはそんな大湯と徳川将軍家にまつわる歴史的な縁起が書かれており、熱海にゃ余多の温泉施設があるけれども、ここのお湯は他所とは違う別格なんだぞ、由緒ある名湯なんだぞという高い誇りが伝わってきます。
さて、前置きはここまでにして、石で組まれた独特なアーチを潜って玄関へ。靴は玄関入ってすぐ左の下足場へ収め、帳場で湯銭を支払います。そして廊下を進んだ先にある引き戸を開け、裏手に出て浴舎へと向かいます。浴場へと向かう途中に、お旅館時代に客室として使われていたお部屋が見えますが、30畳の大きなお部屋は無料休憩室として、他の各個室は有料休憩室になっているようです。
浴場は大小の2種類に分かれ、男女入れ替え制になっており、私が訪ねた日は手前側の小さなお風呂に男湯の暖簾がかかっていました。このため、本記事では小さなお風呂に関して説明させていただきます。なお、浴場内は写真不可であり、また訪問時は入浴客が多かったため、今回記事は文章のみで説明してまいります。もし館内の様子をご覧になりたい方は公式サイトをご覧ください。もしくはネット上にたくさん関連記事が存在しているかと思いますので、ご自身で検索してみてください。
小さな方と言っても、他の中小規模旅館に比べたらはるかに大きく、お風呂の入口かと思ってドアを開けたらまだ先に廊下が伸びているのでちょっと面食らいました。また途中で内湯用と露天用の脱衣室に分かれるのですが、両者は中でつながっているので、どちらを使っても同じです。広い脱衣室内には有料ロッカー(100円)のほか、エアコンや扇風機、ドライヤーなど、ひと通りの備品が揃っているので、使い勝手に問題ありません。
内湯に足を踏み入れますと、まず中央に据えられている大きな浴槽が視界に入ってきます。ちょっとしたプールのように大きな浴槽であり、熱海が絶頂を迎えていた高度経済成長期には、団体客が一挙に入ってきても支障なく受け入れられたことが容易に想像できます。浴室は基本的にタイル張りで浴槽も同様ですが、浴槽の縁だけは伊豆青石が採用され、見た目も実際に触れた感触も優しく好印象をもたらしてくれます。そんな浴槽の真ん中に湯口の枡が取り付けられ、非常に熱い大湯源泉が惜しげもなく供給されているのですが、長年にわたってお湯に触れているため、この桝には温泉成分の白い析出がこんもりと付着していました。温泉の成分がビジュアル的に伝わってくると、マニアとしてはとても嬉しくなってしまいます。
内湯から狭い連絡通路を通って露天風呂へ。露天といっても実質的には半露天であり、洗い場がある内湯と露天風呂を組み合わせたような構造で、露天側では空がちょこっと見上げられる程度の開放感しか無いのですが、その部分は庭のような設えになっていますし、浴槽も部分的ながら岩風呂ですので、それなりに露天風呂らしい雰囲気は楽しめます。なお私の訪問時は露天のお湯がちょっと白く霞んでいたのですが、これは偶然(多客時ゆえ)なのでしょうか。
敷地内に有する2本の源泉から日量8万リットルものお湯が湧出しており、これを各浴槽へ加温循環消毒なしの完全かけ流しで供給しています。湯量豊富だからこそ贅沢な湯使いが可能なんですね。なお源泉温度が高すぎるため、投入量を調整することで加水することなく湯加減を調整しています。湯口のお湯を口に含んでみますと、しょっぱく且つ苦いという典型的な熱海のお湯であることがわかります。この手のお湯は石鹸が泡立ちにくいので予めご承知おきを。浴槽に入るとトロトロのお湯に包まれ、肌にツルスベの滑らかな感触が伝わります。良い湯なのでつい長湯したくなりますが、逆上せやすいタイプのお湯ですので、迂闊に長湯せず適当なところでお風呂から上がるこ:とが大切です。
建物も設備も全体的な古さは否めませんが、歴史あるお湯は大変良質であり、また朝から夜まで長い時間にわたって営業しているため、温泉ファンのみならず熱海で汗を流したい観光客から重宝されています。これからも多くの人から愛され続けることでしょう。
安保湯(熱海23号泉)
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 94.5℃ pH8.07 成分総計9.07g/kg
Na+:2103mg, Ca++:1002mg,
Cl-:5085mg, SO4--:221.5mg,
H2SiO3:304.8mg, CO2:35.3mg,
(平成26年9月26日)
加水加温循環消毒なし
静岡県熱海市上宿町5-26
0557-83-6021
ホームページ
9:00~20:00(受付19:00まで) 火曜定休(祝日の場合は翌日休み)
1000円
ロッカー(100円有料)・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5
前回に引き続き熱海の温泉を訪ねます。今回取り上げるのは、有名日帰り入浴施設「日航亭 大湯」です。ネットが普及する以前から各種ガイドブックで取り上げられてきた有名施設ですので、温泉ファンのみならず熱海を訪れた多くの方が利用しているかと思います。てっきり私は自分のブログで既に取り上げていたものと勘違いしていたのですが、よく調べてみたら未掲載だったので、改めて再訪問してみることにしました。
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熱海を代表する観光名所であり、熱海七湯のひとつでもあつ大湯。かつては自然現象として熱湯の間歇泉が噴き上がっていましたが、昭和30年代に枯れてしまったため、今では観光振興を目的として人工的に噴き上げています。人工的だとわかっているものの、でも目の前でお湯が轟音と飛沫を上げながら噴き上がっていると、つい嬉しくなって写真を撮ってしまいますね。4分毎に3分間噴湯しますので、どなたも大して待つことなく噴泉を見ることができるでしょう。
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この大湯間歇泉からちょっと坂を上がったところが今回の目的地「日航亭」です。古風ながらも立派な建物からは旅館の風格が感じられますが、それもそのはず、以前は老舗旅館として営業していました。私の朧気な記憶で恐縮なのですが、今から約30年前でしょうか、バブルが弾けて日本経済が失われた20年や30年と呼ばれる不況に突入する頃、当時の熱海温泉は既に斜陽期を迎えており、従来型の旅館業を営むのが苦しくなっていました。ちょうどその頃、テレビのニュースでこの「日航亭」が取り上げられ、旅館業を止めて日帰り入浴専門施設として業態転換を図ったことが注目されたのです。いまでこそ旅館から入浴施設へリニューアルを図る施設が全国各地でみられるようになりましたが、「日航亭」はこうした業態転換の嚆矢と言えるかと思います。このような動きは当時としては非常に珍しく、衰退する温泉業界の中で生き残りを図る奇策として大きなニュースバリューがあったのでしょう。老舗旅館の暖簾を下して銭湯のようなお店に変貌するのですから、当時は相当の決断を迫られたのかと思いますが、熱海温泉界がドン底から這い上がって現在のような再発展に至っても、お客さんが絶えることは無いのですから、その当時の決断は間違っていなかったわけです。
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徳川家康に気に入られた江戸時代の熱海は天領であり、3代家光以降の将軍たちは大湯のお湯を「御汲湯」として江戸城まで運ばせました。外壁にはそんな大湯と徳川将軍家にまつわる歴史的な縁起が書かれており、熱海にゃ余多の温泉施設があるけれども、ここのお湯は他所とは違う別格なんだぞ、由緒ある名湯なんだぞという高い誇りが伝わってきます。
さて、前置きはここまでにして、石で組まれた独特なアーチを潜って玄関へ。靴は玄関入ってすぐ左の下足場へ収め、帳場で湯銭を支払います。そして廊下を進んだ先にある引き戸を開け、裏手に出て浴舎へと向かいます。浴場へと向かう途中に、お旅館時代に客室として使われていたお部屋が見えますが、30畳の大きなお部屋は無料休憩室として、他の各個室は有料休憩室になっているようです。
浴場は大小の2種類に分かれ、男女入れ替え制になっており、私が訪ねた日は手前側の小さなお風呂に男湯の暖簾がかかっていました。このため、本記事では小さなお風呂に関して説明させていただきます。なお、浴場内は写真不可であり、また訪問時は入浴客が多かったため、今回記事は文章のみで説明してまいります。もし館内の様子をご覧になりたい方は公式サイトをご覧ください。もしくはネット上にたくさん関連記事が存在しているかと思いますので、ご自身で検索してみてください。
小さな方と言っても、他の中小規模旅館に比べたらはるかに大きく、お風呂の入口かと思ってドアを開けたらまだ先に廊下が伸びているのでちょっと面食らいました。また途中で内湯用と露天用の脱衣室に分かれるのですが、両者は中でつながっているので、どちらを使っても同じです。広い脱衣室内には有料ロッカー(100円)のほか、エアコンや扇風機、ドライヤーなど、ひと通りの備品が揃っているので、使い勝手に問題ありません。
内湯に足を踏み入れますと、まず中央に据えられている大きな浴槽が視界に入ってきます。ちょっとしたプールのように大きな浴槽であり、熱海が絶頂を迎えていた高度経済成長期には、団体客が一挙に入ってきても支障なく受け入れられたことが容易に想像できます。浴室は基本的にタイル張りで浴槽も同様ですが、浴槽の縁だけは伊豆青石が採用され、見た目も実際に触れた感触も優しく好印象をもたらしてくれます。そんな浴槽の真ん中に湯口の枡が取り付けられ、非常に熱い大湯源泉が惜しげもなく供給されているのですが、長年にわたってお湯に触れているため、この桝には温泉成分の白い析出がこんもりと付着していました。温泉の成分がビジュアル的に伝わってくると、マニアとしてはとても嬉しくなってしまいます。
内湯から狭い連絡通路を通って露天風呂へ。露天といっても実質的には半露天であり、洗い場がある内湯と露天風呂を組み合わせたような構造で、露天側では空がちょこっと見上げられる程度の開放感しか無いのですが、その部分は庭のような設えになっていますし、浴槽も部分的ながら岩風呂ですので、それなりに露天風呂らしい雰囲気は楽しめます。なお私の訪問時は露天のお湯がちょっと白く霞んでいたのですが、これは偶然(多客時ゆえ)なのでしょうか。
敷地内に有する2本の源泉から日量8万リットルものお湯が湧出しており、これを各浴槽へ加温循環消毒なしの完全かけ流しで供給しています。湯量豊富だからこそ贅沢な湯使いが可能なんですね。なお源泉温度が高すぎるため、投入量を調整することで加水することなく湯加減を調整しています。湯口のお湯を口に含んでみますと、しょっぱく且つ苦いという典型的な熱海のお湯であることがわかります。この手のお湯は石鹸が泡立ちにくいので予めご承知おきを。浴槽に入るとトロトロのお湯に包まれ、肌にツルスベの滑らかな感触が伝わります。良い湯なのでつい長湯したくなりますが、逆上せやすいタイプのお湯ですので、迂闊に長湯せず適当なところでお風呂から上がるこ:とが大切です。
建物も設備も全体的な古さは否めませんが、歴史あるお湯は大変良質であり、また朝から夜まで長い時間にわたって営業しているため、温泉ファンのみならず熱海で汗を流したい観光客から重宝されています。これからも多くの人から愛され続けることでしょう。
安保湯(熱海23号泉)
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 94.5℃ pH8.07 成分総計9.07g/kg
Na+:2103mg, Ca++:1002mg,
Cl-:5085mg, SO4--:221.5mg,
H2SiO3:304.8mg, CO2:35.3mg,
(平成26年9月26日)
加水加温循環消毒なし
静岡県熱海市上宿町5-26
0557-83-6021
ホームページ
9:00~20:00(受付19:00まで) 火曜定休(祝日の場合は翌日休み)
1000円
ロッカー(100円有料)・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5