WIND AND SOUND

日々雑感 季節の風と音… by TAKAMI

「貧しい芸術家はいません」

2012-11-13 | アーティスト魂






「バベットの晩餐会」

これを最初に観たのはもう20年以上前かと思うけれど、今でも私の大好きな映画。
その時の気分もあるし、映画の作品に順位をつけることはできないけれど、
「ひとつ選べ」と言われたらコレです。

まあ、無人島に1冊本を持っていくとしたら、、みたいなね。

これまで、この映画についてブログを書き始めてから一度も書いていなかったとは、自分でもびっくり。
またまた暇にまかせて、レビューなど書いてみます。



時代は、19世紀後半、舞台はデンマーク偏狭の地ユトランド。貧しい村で慎ましやかに暮らす人々。
プロテスタントの牧師(既に故人)を父として、生涯を神に捧げる敬虔な老姉妹のところに、嵐の夜、憔悴しきったバベットが、1通の書状を持ってやってくる。
彼女は、フランス革命後のパリで、パリコミューンによって、夫と子供を殺され、自分自身も処刑されかかったところを、亡命。
その書状の主は、かつてパリで一世を風靡していたオペラ歌手。
数十年も前に、ストックホルム公演に訪れた折、この偏狭の地を訪ねて、姉妹の「妹」に恋をしたが敢えなく失恋。姉妹への敬意を受け取ってほしいとバベットに手紙を託す。
姉妹が「私たちはあなたを雇うお金がない」といって辞すと、バベットは「給料はいらないのでどうかあの方のお友達に仕えさせてほしい」と哀願する。
彼女は、異郷の地で家政婦をしながら、生涯をこの姉妹に捧げると決心していた。

それから十数年の歳月が流れ、牧師館に集う信者たちも高齢になり、諍いが絶えなくなってきているある年のこと、
姉妹の亡き父である牧師の生誕100年を祝う会をささやかに催そうと、姉妹が信者たちに提案した。
折りしも、バベットは、パリの親友が毎年買ってくれているという宝くじに当選して、大金を手にしたところだった。
バベットはその会に、今回に限り、フランス料理の晩餐を自費で作らせてほしいと姉妹に願い出る。
姉妹は、バベットの初めての頼みごとと承諾したが、海を渡って運ばれてきた生きた海亀や鶉などの食材を見て恐れ、不吉なものを感じ、
「みなさんの魂が危険に晒されることになってしまった」と、信者たちに涙ながらに詫びる。
信者たちは、食事を舌で味わうことなく、この小さな舌は、祈るために使おう、食事中、食べ物のことは決して口に出さないように…などと結束を固める。



ストーリーは、美しい風景の中で淡々と、殆どBGMなしでゆっくりと展開していきます。
なので、ストーリーの中で歌われる教会や牧師館での賛美歌や、歌のレッスンでのオペラのデュエットや、舞踏会の室内楽などが際立っています。

…映像も音も、ストーリーもすべてが私にとって好ましいのであります。                                 

晩餐会のシーンにも音楽は殆どありません。
その場には、昔、姉妹の「姉」に恋をしてやはり叶わなかった元士官(今では将軍)が数十年ぶりで同席することになります。料理の味に言及するのは彼ただ1人。
12人のナイフとフォークの音と、亡き牧師を懐かしみ、称える会話がゆっくりと流れていきます。
それぞれのキャストが、食事を口にするときの微妙な表情とカメラワークが素晴らしいです。
バベットが、厨房で、晩餐も終盤、すべての料理を作り終えて、ワインを味わうときの表情も思わず唸ります。
バベットは、確か、厨房で、2度ワインを口にします。1度目はテイスティング。
この違いも私は見逃しませんでしたよ~~♪♪


この映画は、バブル期1987年のデンマーク映画で、当時の日本では、「グルメ映画」のように評され、この晩餐と同じメニューを食べる企画があちこちのフレンチレストランで企画されたとか(@_@;)


…しかし、この作品のテーマはそんなことではないのです。

私にとって、この映画のテーマは、「芸術」、そして「魂の幸福」…だろうか?

そして、さらに、今では名実ともに私自身も「熟年」となり、晩年へと歩みをすすめていくにあたり、
老いて、死に近づいていく中でのこの世での幸福とは何か…という思い、そして「あの世に持っていけるのは人に与えたものだけだ」という作品中の言葉が深く心に残ります。


良い映画は、何年経っても自分の歩みに寄り添って、ともに歩んでくれるものですね。

記事のタイトルは、この作品を初めて観たときから、最も好きな言葉。


ただ、原作の小説は、少し違うようなのです。
「芸術」についてのもっと重く深いテーマが底に流れているようなのです。

…それはまたの機会に。


バベットの晩餐会 HDニューマスター [DVD]
ガブリエル・アクセル,カレン・ブリクセン,ユスツ・ベツァー
紀伊國屋書店



Comments (5)
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