剣道六段のS君と、今の剣道がおかれている状況につ
いて話をした。
全くその世界は知らないので、いろいろ聞いたのだが、
面白い話がいくつかあった。
まず、世界大会というものが四年に一度行われている
という事実。
こんなことでさえ、殆どの日本人は知らないのではな
いだろうか。
柔道なら、スポーツ新聞の一面に載ることはあるが、
剣道はまず載らない。
というか、過去に一度もないのでは。
そして、前回、日本は団体戦に負けて、連勝は十二連
覇だかで途絶えたという。
日本の剣道会ではこれ以上無い大きな出来ごとが、一
般日本人の知らないところで密かに起こっていたのだ。
更に面白いのは、準決勝で負けたらしいのだが、その
相手がアメリカで、しかも主将は、S君が嘗て相手を
したことがあったという事実。
そして何と、S君はそのアメリカ人に(日系らしい)勝っ
てしまったらしい。
圧倒的な勝利だった、とS君は言った。
S君曰く、「代表とか言ってもそんなに差があるもの
ではないのが剣道である」、ということらしい。
「彼は相当ショックを受けていたから、そこから必死に
練習したのではないか、それで日本に勝ってしまった。
つまり、俺が負けていたなら、日本が世界大会で負
けるなどということにはならなかったと思う」、と推理
していた。
それで、S君に、世界大会の彼は本当に強かったのか
と聞いてみると、ここがちょっと問題で、他の日本発
祥の競技と同じ構図が見られたのだ。
S君に言わせると、当てるのが上手い、ということで
あった。
ニュアンス的には、柔道で言うポイントを取るのが上
手いという意味のようだ。
つまり、一本できれいに決める柔道ではなく、兎に角
1ポイントでも上回れば勝ちは勝ちという、勝敗のみ
を考えたやり方ということであるようだ。
それは、柔道と同じように、国際化とともに内容が変
質してきたということであった。
それで、そんなに世界では剣道って人気あるのか聞い
てみた。
S君に言わせると、相当人気らしい。
この点に関しては、何を基準にするかで解釈はいろい
ろだろうが。
会長は日本人だが、その他の理事は全部ヨーロッパな
りその他の外人ということで、徐々に日本の発言権が
弱まっているので、ルールもそれに応じて変えられる
傾向にあるということだが、これも全く「JUDO」
が歩んだ道と同じではないか。
「剣道」も国際化して「KENDO」という別物にな
ろうとしている。
もし「東京オリンピック」が決まれば、正式種目にし
たいという国際剣道連盟(?)の野望もあるらしいが、
この点に関しては、開催地にならないことを祈ろう。
しかし、日本の協会はオリンピックの種目になること
に必ずしも賛成ではないらしい。
それは、「JUDO」を見て、一番大事なものが欠け
ていると感じているからではないかと推測する。
何故「道」と名づけているのか。
スポーツ化したら、結局勝ち負けしかない。
例えば、「JUDO」の石井を考えてみれば良い。
自分の美学に拘ってオリンピックで負ける「井上」よ
り、例えタックルであろうが勝って金メダルの石井の
方が、殆どの日本人は嬉しいし評価するだろう。
結局は勝って何ぼの世界がスポーツである。
敗者の美学など言うのは、後でスポーツライターが物
語にして、そこで初めて物語として感銘を受けるとい
うもので、飽くまでも後付けの世界なのだ。
その時は勝利しかないのが、一般の見方であろう。
スポーツ化したら間違いなくそういうことになる。
「相撲」が、八百長を含めた伝統芸であるのに、変に
国際化して本来の良さまでなくしたのも同じこと。
独自の文化を守るためには、時に鎖国的措置が必要な
のだ。
良さをなくして国際化する必要がどこにあるのか。
金融の世界とは違うのだから、こういう部分は伝統的
なものに固執して全く問題ないと思うのだが。