⑩ まとめ
公的機関がまとめた「関東大震災」の記録は、膨大なものである。
地震による被害と火災による被害を分けて、倒壊戸数や焼失面積などを記録している。
原因別の死傷者数を細かく記し、市区町村ごとに怪我が何人、死者が何人と、図表にして掲げている。
それはそれで役立つ資料であるが、ともすると災害の真の姿を見失う場合もある。
ここまで体験者の記録を取り上げてきたのは、当事者にしか語れない恐怖やとっさの行動が、100年後のわれわれに様々の示唆を与えてくれるからである。
現代は、当時と比べて防災意識が格段に進歩し、例えば家屋等における耐震構造の普及は較べるべくもない。
都心の高層ビルなどは、固い地盤にまで届くパイルを打ち込み、頑丈な基礎を築いている。
さらには大きな震幅でも吸収する最新の構造を備え、震度6や7ではびくともしない安心感を喧伝する。
たしかに、大企業や高所得者が入居するビルやマンションは、地震の瞬間は充分に耐えられるであろう。
しかし、一般市民が肩を寄せ合って暮らす下町などでは、絶えず災害の危険にさらされている。
家屋の倒壊や、火事による焼失など、依然として不安は解消されていない。
「逃げるが勝ち」というが、100年前と同様、右往左往するばかりかもしれない。
下町のある地域では、年に数回、初期消火や避難訓練を重ねているが、いざというとき役に立つであろう。
東北地方には「津波てんでんこ」という諫めがあって、老女の言葉が一躍クローズアップされたが、津波に限らず大地震や大火の際には個人個人の判断が求められる。
危険や困難の迷路を潜り抜ける資質は、今回見て来たようなひとさまの体験談によって鍛えられるかもしれない。
要はとっさに想像力が働くかどうかである。
相手は千変万化の魔物であるから、どれが最善かとは言えないが、普段から見聞きしたことを意識に取り込んでおけば、自ずから行動に違いが出るのではと期待する。
インフラの停止や帰宅困難など言われて久しいが、すべてが消防や警察が対処できるわけではない。
エレベーターに閉じ込められたらどうするか、電車の中で長時間身動きできなかったらどうするか、水一本、チョコレート一枚ぐらいは鞄やハンドバッグに用意しておいた方がいい。
用心深い人も増えているが、われ関せずの人は、いざというとき後悔することになる。
老人の杞憂に終わることを望んでいるのだが・・・・。
(おわり)
ありがとうございます。
もしまた大地震が起こったら、東京は結構な範囲が埋立地であるようなので、海側の下町(江戸川、江東、隅田、葛飾)などの一般民は相当な被害を受けそうですね。そう思うと住民は我関せずとはいかないでしょう。
山梨に住む私も我関せずとはいきません。揺れは東京ほどではないにしても、もしかしたら地震に触発されて、富士山の噴火が・・・。
東京にも埼玉の草加にも兄弟がいますので、昨年から関東、東海で地震が頻発しているのは心配です。
おっしゃるとおり、海側の下町は地盤に関して100年前とさほど変わっていないのでしょうね。
記録にもありましたが、早くから埋め立てられた王子などは新しく埋め立てた三河島辺りより揺れに抵抗力があったようですが、100年でどこまで地盤が強化されたものやら。
富士山の噴火も、心配ですね、
マグマだまりが一杯だなんて、専門家が言っているし。
俄かには信じられないようなことですが、自然のご機嫌が悪くならないことを祈ってます。