どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

むかしの詩集とフォト日記(13) 「つくば嶺」

2011-01-25 00:12:46 | ポエム
     坊主岩   



     「つくば嶺」



  山の中腹から見ると

  澄んだ大気の底に濃い緑が沈んでいる

  この夏も暑い夏となって

  湖はこぼれた糊のように大地に貼りついている



  <はじめにお殿様がござりました>

  それが百姓の歴史だ

  大地は領主さまからの預かり物

  採れた穀物は半分お返しし

  半分は恵んでもらう

  何も採れない年は恵みもない

  

   とびきり暑い夏だ

   星が蛍のように飛んだ

   奈良の古寺の大釣鐘がなぜか落ちた

   京の街では疫病がはやった

   幾千という死びとを

   幾百という坊様が供養したそうな



  そのような年

  東国の村々では

  ひたすら秋の来るのを怖れた



   坊様がいっぺえいるとええ

   きっと雨を降らしてくれるだ

   ゆんべ見た夢にゃあ

   弱った田畑にポコポコ茸が生えて

   その茸がよく見ると坊様の頭で

   坊様が幾百とそろってせり上がってきて

   西の空に手を合わせて経を誦んでただ



   坊様がいっぺえいるとええ

   茸は雨と縁つづきじゃに



  岩に腰をおろして遠くに目をやると

  白い光の中に鋭い峰が見える

  百姓の先祖たちは

  毎日同じように空を眺め

  祈りを繰り返したのではないか

  それは雨を待ち焦がれ

  雨を待ちくたびれた数だ

  それが幾つになったら怒りの数となり

  あの峰やこの山のように起ちあがったのか

  そんなことを考えていると

  頭上で急に雷が鳴った





   

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