どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

自薦ポエム⑰ 『あわれ浦島草』

2020-07-11 00:06:56 | ポエム

郷里に戻った浦島太郎は ぼんやり周りを見回した

ありゃりゃ わしは一体どこの村に来てしまったのだ

何ひとつ見覚えのない風景ばかり

釣竿を担いで魚釣りに通った浜も

亀をいじめてワイワイ騒いでいた子供たちも

空に描かれた絵のように儚く消えている

 

助けてやった亀の恩返しに うかうか有頂天

誘われるまま 竜宮城へ案内されたのはいいが

生きて行き着ける場所だと思ったのか

海の中を潜っていく時 死の予感はなかったのか 

みめうるわしい乙姫様にもてなされても

頬をつねってみる沈着さはなかったのか

 

時空を超えて夢を紡ぐのはお伽噺の常

鯛やヒラメの持ち寄るご馳走に舌鼓を打ち

えもいわれぬ歌や踊りに浮かれていた日々

太郎さん お家のことは忘れたの?

残してきた家族が心配じゃないの?

もう一日 あとひと月 楽しい時間は罪作り

 

見知らぬ風景の中で 後悔は波のよう

落胆した太郎は玉手箱の蓋に手をかける

開けちゃダメよ 耳元で囁く乙姫様の声は

時を閉じこめた パラドックスの含み笑いか

寂しいから怖い 怖いから覗きたい

ダメと言われたから ダメを駄目にする心の罠

 

ボワッと音がして煙が立ち昇ると

太郎はたちまち白髪のお爺さん

浦島草の根元からは 変色した仏炎包の苦渋

ひょろりと伸びた釣り糸が哀れをさそう

ゾナハキト 意味ありげな逆さ言葉が口を衝く

時の在処を手探りするが お伽草紙は沈黙のまま

 

浦島草は太郎の成れの果て

鳥足状の緑葉が 空をつかむ

つかの間の夢物語は 永遠の縮尺か

不可思議なるかな浦島草 独りぽつねんと

宇宙の理を混沌に差し戻し

竜宮城の謎を 時の迷宮に委ねんとする

 

(『あわれ浦島草』2014/01/16より再掲)

 

   


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