どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

自薦ポエム㉝ 『月と太陽の物語』

2020-08-29 00:36:47 | ポエム

むかしむかし南の島では

真昼間なのに空が急に暗くなり

腰蓑をつけた部族の民が大慌てした

 

椰子の葉の小屋にこもった呪術師は

島を造った暗黒の神がよみがえり

この世の光を食ったのだと託宣した

 

太陽を返してほしい

部族の民は呪術師の前にひれ伏した

魚でも椰子の実でもなんでも差し上げます

 

その言葉に偽りはないな

呪術師は神の声で宣った

それなら間もなく光を返してやろう

 

父から聞かされた世界の物語には

ジャングルに咲く人食い花や

何日も落ち続ける底なし穴の話があった

 

皆既月食の夜 満月に影が忍び寄り

背後から音もなく呑み込んだ

赤黒く染まった月の色は不吉な血の暗示か

 

西洋の物語に月食の話もあったろうに

父はブラッドムーンの謂れは語らなかった

地球が流す血の痕を思い出したくなかったのか

 

今宵 空にいるはずの父に訊きたい

太陽と月を食した怪物は存在しますか

どちらが美味かったとか漏らしませんでしたか

 

地球が太陽や月に食べられる日はないですか

地球がオゾンごと自身を喰らう日は来ませんか

新世紀のモンスターはまだ目覚めの途中ですか

 

月と太陽の物語を思い出し

新たな一ページを書き足して

世界の子どもらに教えてあげたいと思うのだ

 

 (『月と太陽の物語』2014/10/14 より再掲)


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