どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム126 『消えた自転車』

2016-06-25 01:10:41 | ポエム

 

      自転車

    

 

リサイクル店から出てくると

軒下に置いておいた自転車がない

店をひとまわりしてみたが

どこにもない

 

さては市の条例違反で持っていかれたか

去年駅前の歩道に止めておいたときは

遠くまで足を運んで3000円の罰金を払わされた

しまった また失敗したか

 

その場で途方にくれていると

ガラガラとシャッターが開いて

無精ひげの若者が顔を出した

ここから自転車が消えたんだけどキミ知らない?

 

いらだちを見せる僕を冷静に見返す

ああ自転車ね よく持っていかれるんですよ

ということは・・・・

泥棒じゃないっすよ きっと警察ですよ

 

だって店の敷地内じゃないか

僕は警察官を相手にしているように文句を言う

日除けシートが出ているからそう見えますが

ひょっとしたら うちの敷地じゃないのかもしれないな

 

持っていったのは市役所か警察か あるいは敷地内か敷地外か

店員と言い争っても仕方がない

うまい具合に 隣の駄菓子屋の前に公衆電話があった

古着を売った260円のうち 10円玉を電話機に入れようとした

 

すると後ろから付いてきた店員が先に10円玉を差し込んでいる

もしもし 僕の自転車がそちらに運ばれたと思うのですが・・・・

説明しようとすると 〇〇さんですねと何もかも分かっている様子

えっ それってどういうこと?

 

GPS機能か それとも公衆電話の電話番号からか

いや 僕の名前までは分からないはずだ

とすると 自転車の鑑札番号か

いずれにしてもプライバシーは丸裸かもしれない

 

たった10分で出てきたのに 持っていくなんて

しかも古いTシャツを売って わずかな金と換えてきたところで

自転車がないと働きにも行けないので すぐに行きます

それで罰金はいくらですか

 

125円です

えっ そんなもので済むのですか

だって260円しかないんでしょう?

公衆電話の10円は受話器をかけると戻りますけどね

 

なんだか嬉しいような悲しいような

10円玉が戻ったら リサイクル店の店員に返さなくっちゃ

たぶん警察だと思うが 係官も案外やさしいじゃないか

店主も もうちょっと新しいうちなら高く買えるんだが、と

 

みんな何故こんなに優しいのだ

突っかかっていたのは僕だけか・・・・

昔から質屋通いで命をつないできた

質屋のある文化圏で良かったと思いながら

 

質屋に預けるものは 物ではなかったような気がする

信用と人情が担保だったか

お金は借りれば返すというのが基本だった

いまでは後腐れ無しの買取が主流だが

 

質屋通いを恥ずかしいと思ったこともあるが

今日ただいまの状況は その質草さえない体たらく

あの頃は東京オリンピック千円銀貨を握り締めて

暖簾かき分け 出たり入ったり

 

あっ 自転車取りに行かなくっちゃ

ちょうど身分証明書も持っているし

だけど保管料125円か 10円玉も取っとけよと言われ

受ける親切が憐れみにも感じられて・・・・

 

ああ やだやだ

親切って  するのもされるのもめんどくさい

そのせいか 近頃めんどくさい夢ばかり見る

だからといって夢見なくなったら それはそれで恐ろしい

  

 


コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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とても (hide-san)
2016-06-25 18:00:01
とても面白かったです。
ありがとうございました。
返信する
こんばんは (tadaox)
2016-06-26 03:29:56
(hide-san)様、いつもありがとうございます。
たいへん嬉しいコメントをいただき、感謝しております。

天気も政情も大荒れですが、どうぞ健やかにお過ごしください。
返信する

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