どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

新むかしの詩集(13) 「ものがたり」

2011-12-18 02:18:06 | ポエム

     ナニコレ?ビル




     「ものがたり」



  しゅろちくを知っていますか

  とげぬき地蔵の縁日で、いまにも踏まれそうな道端に

  ほら、シャボテンと並んでいた

  電光に照らされて、緑の羽根をせいいっぱい広げて見せていたが

  あなたが線香の煙をまとって帰ってきたとき、もう誰かに買われていったあの観葉植物の棕櫚竹です



  窓際の部長の机に置かれた一本の棕櫚竹

  西日がさす季節になって、久しく遠ざかっていた神の恵みが届けられたのを知った

  太陽がさしのべる一筋の慈愛をもとめて、彼女はひ弱な腰を曲げていった

  もしも鉢という足かせがなかったら

  もしも白光の記憶がよみがえったなら

  ビル四階の窓を突き破り、都電通りの雑踏を見おろし、商売がたきのK社をかすめ

  はるかなデパートの気球に惑わされないように気をつけながら

  するすると、神への橋を架けただろうか



  かつてインコやオウムを憐れんだ

  いまは自らを憐れまねばならない

  主人は彼女が大きくなるのを好まなかったし

  神への祈りなど侮蔑していた

  彼女の曲がった腰に気づいたとき

  主人は神を、ドン・ファンめと罵った

  たまに誘いに来ては

  飽きるとぷいと見えなくなる

  その理屈にも一理あることが、彼女には悲しかった



  空の青が言葉をはらんだとき、秋は深かった

  太陽はK社のビルにさえぎられ

  誘いのそぶりを見せることなく沈むようになった

  彼女はなおも求めるかたちに曲がっているが

  窓を突き破り、雑踏を見おろし、神への橋を架けるほどの祈りなどないのだから

  せめてちっちゃいまま首だけ伸ばし

  ときどき主人が見せる鋭い視線のように

  K社のビルを憎んでみる



 

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