梅花ウツギの白さに目を留めて
この花の白さはどこから来るのかと訝る
咲くというより消すためのグッズが
フェイドアウトのために用意されたのだろうか
青いインクで書き散らした日記の上に
梅花ウツギの花を敷き詰めてみようか
すれ違った青春の痛みも
手品のように空中に消えるだろうから
名前も消えた面影だけの人よ
元気で喜寿を迎えられそうですか
古い日記はもう跡形もなく
燃やした手紙の煙も行方不明です
ただあの日の気配を懐かしむ
それだけならいいですか
すれ違いの原因など
雲の海に流してしまいました
星降る野原で交わしたキッスは
とても熱かったよね
鼻腔を行き来する息遣いに誘われて
恋の深淵を覗きました
お盆で帰省するたびに
車窓から家の方角を眺め
もうお嫁に行っただろうかと目を泳がす
お寺の鐘がゴーンと響きました
六度の干支をやり過ごした果てに
まっさらな日記を机にひろげます
梅花ウツギの花をそっと並べれば
残り香が仄かに匂い立つでしょうか
出来事は在って無いようなもの
青春の日々も遠い稲妻のよう
無理に引き寄せれば
時空が歪むだけ
梅花ウツギは空木の仲間ですか
空洞の茎には暗闇がひそみますか
ないものねだりの造物主が創る
存在を無にする純白の花
すべてを忘れたことにしましょうか
跡形もない日記に顔を寄せ
懐かしむだけならいいですか
手探りするだけなら許してくれますか
(『沈黙の梅花ウツギに』2015/4/8より再掲)
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