どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム209 『曼殊沙華との白い別れ』

2018-09-23 00:13:00 | ポエム

 

     曼殊沙華(彼岸花)

    (城跡ほっつき歩記)より

 

 

 

  突然の訃報は兄嫁からだった

  家庭内のいざこざで疎遠になったまま

  実家の戸主をあきらめて近くの町へ引っ越した

 

  兄嫁の所作が気に入らないと母が怒り

  日々いがみ合いが続く中

  ぼくが母の味方をして兄に身を引いてもらったのだ

 

  盆暮のたびに兄はバイクに乗ってやってきた

  ひどい仕打ちと恨みを内向させた兄嫁の目を盗み

  くたびれた普段着のままの里帰りだった

 

  あまり家庭内のことは口にしなかったが

  それでも時々漏らす愚痴はあわれだった

  給料は全部召し上げられガソリン代にも困る様子だった

 

  母の面倒をすぐ上の姉にゆだね

  ぼくは東京に職をもとめた

  盆暮に帰郷して盆暮には来る兄と会ってはいたのだが

 

  男だったら自分の嫁を叱りつけてでも小遣いをもらいなよ

  兄に対してずいぶん思いやりの無い言葉を掛けたものだ

  それでも兄は「そうなんだけどな」と穏やかに躱した

 

  上京するからどこかで会えないか

  兄からの手紙をぼくは軽んじすぎた

  いまは忙しくって無理だからこちらから連絡するよ

 

  そうやっているうちに歳月が過ぎ

  猛暑の後に突然訃報が届いた

  会社の慰安旅行で温泉郷に行きその後体調を崩したらしい

 

  死因は急性の肺炎だったという

  循環型浴槽に繁殖したレジオネラ菌に感染したのだ

  病院でも手を尽くしたらしいが回復しなかった

 

  兄との再会は縁もゆかりもない寺の墓地でだった

  墓域の端に立てられた卒塔婆が目印だった

  兄の自宅からも実家からも遠い地にひとり置き去りにされ

 

  ああ なんという光景だろう

  卒塔婆の数メートル先に白花曼殊沙華が咲いていた

  飯茶碗に突き立てた箸のように抜き出た野生の彼岸花よ

 

  寂しいだろうな兄さん 原因をつくったのはぼくなんだよね

  秋の空がストンと静寂を落としていく

  兄さんこれは宇宙の穴から抜け落ちた冷気なのかもね

 

  取り返しのつかない言葉 その重さを

  ぼくはいつまで背負っていけるだろう

  まだ大丈夫だよと言えば不遜に受け取られるかな

 

  バイバイ兄さん そして白い曼殊沙華よ

  しばらくそこで兄を見守っていてくれないか

  北へ飛び立つ鶴の季節にはまだ間があるのだから

 

 

 

 

 

 

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